赤狩りと恐怖の均衡について(中) 「核のない世界」を諦めない その4
Japan In-depth / 2024年4月26日 17時0分
ただ、ここで見ておかねばならないのは、1964年の時点では、中国はまだまだ大躍進政策失敗の後遺症から脱することができず、国民の生活水準も非常に低かったということである。
にもかかわらず、莫大な費用がかかる(これについては、シリーズ第1回で触れた)核開発に乗り出したわけで、これは伝聞だが、当時の人民解放軍の上層部は、
「たとえズボンをはかない生活をしても、原爆を持つ国になる」
と言い交わしていたという。
その中国と、朝鮮戦争に際して「血盟の関係」となった北朝鮮も、休戦協定成立から程なく、1956年にソ連邦と核開発協定を結び、科学者を派遣するなどして開発に乗り出したが、最初の核実験に成功したのは2006年のことである。
これもよく知られている通り、北朝鮮は国際的に孤立し、まともな経済活動などできず、国民は満足に食べることさえできていない。その状況下での核開発など、かの国の安全を担保するどころか、長い目で見て逆効果になるであろうと、私は考える。
その議論は次回あらためて見るとして、ひとまず話を世界の核開発に戻すと、中国に続いてインドが核実験に成功した(1974年6月18日)。
このように、1960年代から70年代にかけて、核開発競争は加速度的に進んだのだが、特筆すべきは核兵器(=原水爆)そのものより、運搬手段の進歩が著しかったことであろう。
端的に述べると、広島・長崎に原爆を投下したB-29はレシプロエンジンを搭載した戦略爆撃機であるが、この時代には音速を遙かに超える速度で地球の裏側まで到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)が実用化された。
この時期に前出のアインシュタイン博士は、米国のメディアから、
「第3次世界大戦が起きたなら、どのような兵器が用いられると思いますか?」
との質問を受け、こう答えたという。
「第3次は分かりませんが、第4次は容易に想像できます。石と棍棒でしょう」
次なる世界大戦がもし起きたなら、それは破滅的な核戦争になることが必定で、近代文明など跡形もなくなってしまう。それでもまだ戦いたいのであれば、もはや石や棍棒でやり合う他はない、と博士は言いたかったのだろう。
世界の指導者たちも、本当はそのくれいのことは承知しているのではないか。にもかかわらず、どうして核廃絶の動きがなかなか加速しないのか。
それは「恐怖の均衡」という世界観のせいであろうが、次回、もう少し詳しく見てみよう。
(つづく。上はこちら)
トップ写真:1982年に退役した「タイタンⅡ」ミサイル アメリカ・アリゾナ 出典:Michael Dunning / gettyimages
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