宗教教育と言語について(上) イスラム圏の教育事情 その4
Japan In-depth / 2024年5月31日 17時0分
ネーデルラントという国にあって、歴史的に政治経済の中心であったのがホラント州で、そのポルトガル語訛りが日本に伝わった結果、国全体を「オランダ」と呼ぶようになった。その経緯とよく似ている。
Japanにしても、もともとは日本を中国語風に読むとジーペンあるいはリーベンで、これがイスラム商人を介した交易を通じてヨーロッパ人の知るところとなり、たとえばイタリア人の探検家マルコ・ポーロが「黄金の国ジパング」の話を広めたという経緯がある。こちらは、ご存じの方も多いだろう。
つまり私がロンドンで聞いた、イラン青年の話は理解が逆だったと見ることもできるのだが、このあたりの解釈は専門の研究者の間でも意見が分かれ、1959年には、当時の国家元首シャー・レザー・パフラヴィーが、
「呼称としてのイランとペルシャは、どちらでもよい」
とする勅令を、わざわざ発していることも分かった。
その後1979年に、前述の革命によって王制は打倒され、国号に「イスラム共和国」と関すると同時に、国名はイランとする、との決定が下されたのである。
私がくだんのイラン人青年と知り合ったのは1980年代半ばのことであったから、今にして思えば、イラン・イスラム共和国という呼称について、肯定的に受け止めていなかったのかも知れない。
ここ数年、イランと言えばロシア(=プーチン政権)の数少ない同盟国であり、中東諸国のイスラム過激派を支援して、米国やイスラエルと激しく対立し、よくも悪くも世界的に注目の的であった。
とりわけ今月19日には、エブラヒム・ライシ大統領らが乗ったヘリコプターが墜落し、大統領と外相を含む搭乗者7人が死亡するという事態も起き、日本のメディアにおいても、中東の国としてはイスラエル、パレスチナと並んで名前が頻出する国と言って過言ではない。
しかし、その割には、非アラビア語圏における宗教教育の実態とか、知らないことがあまりにも多かったのだと、いささか反省させられた。
次回は『聖書』や仏典との比較から、この問題をもう一度掘り下げてみたい。
【取材協力】
若林啓史(わかばやし・ひろふみ)。早稲田大学地域・地域間研究機構招聘研究員。京都大学博士(地域研究)。
1963年北九州市生まれ。1986年東京大学法学部卒業・外務省入省。
アラビア語を研修し、本省及び中東各国の日本大使館で勤務。2016年~2021年、東北大学教授・同客員教授。2023年より現職。
著書に『中東近現代史』(知泉書館2021)、『イスラーム世界研究マニュアル』(名古屋大学出版会)など。『世界民族問題辞典』(平凡社)『岩波イスラーム辞典』(岩波書店)の項目も執筆。
朝日カルチャーセンター新宿教室(オンライン配信もあり)で7~12月、博士の講座があります。講座名『紛争が紛争を生む中東』全6回。5/17より受付中。詳細および料金等は、同センターまでお問い合わせください。
トップ写真:ホメイニ氏が15年にわたるパリ亡命後、イランに帰還した時の様子(1979年2月1日)
出典:Bettmann/getty images
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