「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その1 新文書が示す国際安全保障策
Japan In-depth / 2024年6月25日 23時0分
そのAFPIが5月中旬に「国家安全保障へのアメリカ第一のアプローチ」と題する論文集を刊行した。トランプ次期政権が誕生した場合のその国家安全保障政策、とくに対外戦略の具体的な内容をトランプ陣営代表の専門家14人が執筆した政策報告書の集大成である。
この報告書は軍事政策、対中政策、同盟関係、中東、ロシアなど各分野に分れ、合計12章から成る。単行本の形をとり、計250ページの重厚な内容だといえる。筆者はみなトランプ前大統領の支持者であり、実際にトランプ政権で働いた経歴の専門家たちが大多数を占める。
同書の全体を編集したのはいまAFPIで国家安全保障部門の責任者を務めるフレッド・フライツ氏である。同氏は2017年1月に発足したトランプ政権では大統領副補佐官、国家安全保障会議の主任スタッフを務めた。その前はCIA(中央情報局)、国家情報会議、議会下院情報特別委員会首席補佐官などという経歴を有する。
この「国家安全保障へのアメリカ第一のアプローチ」の内容をまず俯瞰すると、次期トランプ政権が日米同盟破棄とかNATO脱退という政策はとらないことは明白となる。全体としては既存の同盟関係の強化が方針である。ただし同盟関係では従来よりも防衛負担の双務性、均等性を求める。だから同盟全体としてはむしろ強化という方向を目指すわけだ。
トランプ政策は世界戦略としては「力による平和」を主唱する。軍事力を重視して、敵対勢力には「力の行使」につながる軍事的な抑止の構えも辞さない。同時に既存の国際秩序の維持には年来の同盟相手との協力をも重視る。この点では孤立主義ではない、というわけだ。AFPIの常時の外交政策表明では「単独ではなく」という標語を繰り返している。
この報告書はこの段階では尚早すぎる観は逃れられないとはいえ、トランプ氏の11月の本番選挙での勝利を前提として、来年1月の政権交代の実務面の手続きも具体的に詳述している。バイデン政権からの政務引き継ぎにはトランプ支持層の合計4千数百人の専門家、実務者があたり、政府各部門の上層部から中堅のポストに就任する、という計画である。この政治任命はアメリカ政府の政権機構では年来の慣習となっている。
(その2につづく)
*この記事は総合雑誌「月刊 正論」2024年7月号に掲載された古森義久氏の論文「トランプ陣営の『世界戦略』を知る」の転載です。
トップ写真:ウィスコンシン州ラシーンのフェスティバル・パークでの集会に到着した共和党大統領候補ドナルド・トランプ前大統領(2024年6月18日)出典:Photo by Scott Olson/Getty Images
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