英国で政権交代が起きた理由(下) 「選挙の夏」も多種多様 その2
Japan In-depth / 2024年7月17日 11時0分
もはや前世紀の話ということになってしまうが、1997年に行われた総選挙でも、労働党は当時の下院の議席総数659のうち419を獲得。当時43歳のトニー・ブレア氏が首相に就任した。ついでながら、この時も18年ぶりの政権交代であった。
この報道に接し、英国労働党に対する関心を深めた私は、その100年に及ぶ歴史や、党内闘争の紆余曲折、そしてブレア氏が「生産手段の公営化」を明記した規約第4条を改正し、いわば社会主義の旗を降ろして労働党政権を実現するまでの歴史を一冊にまとめた。
『これが英国労働党だ』(新潮選書)という本がそれだが、同書の中で、単純小選挙区制の問題にも触れている。
私の取材に対して、
「今回のように、30%そこそこの得票率でもって圧倒的多数を占めるというのは、やはり問題だと思います。21世紀の早い段階で、比例代表制を採り入れることになると思います」
と答えたのは『インディペンデント』紙の政治記者で、一方、
「システムとして問題がないわけでもないのでしょうが、有権者と政治家がより密接な関係を保てる、という意味では、小選挙区制の利点も、もっと強調されてもよいのではないでしょうか」
と答えたのは、この時の選挙で初当選した労働党の新人議員である。拙著の中ではいずれも実名でご登場願い、もっと突っ込んだ議論をしているので、御用とお急ぎでなければ参照していただきたい。
後者について少し補足しておくと、英国における選挙運動とは、もっぱら戸別訪問であったのだが、この件については後であらためて触れる。
もうひとつ、この時の労働党は、トニー・ブレアという党首のキャラクターのおかげで選挙に勝てたのだと、衆目が一致していた。
前述のように、古典的な社会主義の旗を降ろして、労働党を現実路線に転換させたのもそうだが、若くてハンサム、弁舌爽やかなこの人こそ、次なるリーダーにふさわしい、と多くの人が考えたのであった。
今次の選挙においては、スナク前首相が保守党、新首相となったサー・キア・スターマー党首が労働党を率いたが、二人のキャラクターは、色々な意味で対照的だ。
まずスナク前首相について見ると、たしかに「初のアジア系でヒンズー教徒」だが、その割に移民に対しては厳しい政策を打ち出していて、弱者の味方、というイメージとはほど遠かった。そもそも彼は、歴代の首相の中でもっとも金持ちなのである。
とりわけアクシャタ夫人は、インドのIT大手インフォシスの創業者を父に持ち、同社の大株主である。夫婦合わせての純資産は6億5100万ポンド(約1300億円)に達し、これは国王チャールズ3世の個人資産(1200億円弱)を上回る額だ。もっとも、王侯貴族の資産というものは、実際には各地に点在する領地や宮殿の不動産評価額に大きく左右されるので、一概には言えないようなのだが。
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