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英国で政権交代が起きた理由(下) 「選挙の夏」も多種多様 その2

Japan In-depth / 2024年7月17日 11時0分

 ともあれ、物価高に苦しむ庶民からすれば、


「国王よりもリッチな首相に、自分たちの苦労が分かるはずがない」


という目を向けたくなるのも無理からぬ話であるし、『タイムズ』など保守党寄りと見なされるメディアにまで、


「英国人は一般に、為政者が大金持ちであろうとさほど気にしないものだが、スナク首相の場合は、いささか度が過ぎている」


といった論評が載ったのも、やはり無理からぬ話であろう。


 一方、キア・スターマー新首相だが、彼は労働者階級の出身で、もともとは看護師として働いていた母親が難病を患ってからは家計が逼迫。料金が払えず電話を止められたこともあったという。


 学業は非常に優秀で、奨学金を得てリーズ大学を卒業。さらにはオックスフォード大学の修士課程に進んで弁護士資格を得た。


 人権派弁護士として、人種差別の被害者や、大企業から訴えられた環境活動家の弁護を無償で引き受けたこともある。また、労働党政権時代には検察局長官(日本の検事総長に相当)に抜擢された。


 もともと親の代からの労働党支持者ではあったが、弁護士・検事として活躍する家庭で、


「本当に世の中を変えるのは政治の仕事だ」


と考えるようになり、2015年、下院議員に初当選。英国の政治家としては遅咲きの部類に入る。


 しかし、当時のコービン党首に能力を認められ、一年生議員の身で、政権交代を見据えた「影の内閣」で移民問題担当大臣に抜擢された。そして、前回も述べた2019年の総選挙で労働党が惨敗を喫し、コービン党首が辞任したことを受けて、党首選を制したのでる。


 党首に就任した時点では、主要産業国有化など前任者と似たり寄ったりの公約を掲げていたが、その後4年をかけて現実主義路線に引き戻した。


 このため党内左派からは「裏切り者」「日和見」という悪口が、今も聞かれるようだが、かつてのブレア首相と同様、


「左翼に媚びていては選挙に勝てない。それでは意味がない」


というに近いスタンスかと思われる。


 有権者もそのあたりはよく見ていて、彼に対しては


「退屈だが有能(もしくは、有能だが退屈)」


という評価が定着している。勝利宣言の際も、変革の時が来た、と力強く宣言した直後、


「国の方向性を変えるということは、スイッチを切り替えるようなわけには行かない。時間と忍耐強さが必要だ」


と付け加えることを忘れなかった。


 私見ながら、実はこれこそ英国の有権者が単純小選挙区制を基礎とする現在の選挙システムをなかなか変えようとしない、最大の理由ではないだろうか。


 英国の総選挙、とりわけTVなどマスメディアの時代となってからは、党首のキャラクターやカリスマ性が結果に大きく影響するのである。


 別の言い方をすれば、間接的な首相公選制とも呼べるシステムなので、この点を見ずに。英国では割と頻繁に政権交代が起きるのに、日本ではどうしてそうならないのか、という問題を提起しても、あまり意味はないようにも思えるのだ。


(その3につづく。その1)


トップ写真:スナク首相とアクシャタ・ムルティ夫人はイギリスのロンドンでBAPSシュリ・スワミナラヤン・マンディールを訪問した。2024年6月29日。


出典:Photo by Dan Kitwood/Getty Images


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