バイデン大統領はなぜ選挙から撤退したのか 高齢と認知の違い
Japan In-depth / 2024年7月22日 9時28分
アメリカでの「年齢差別」は「人種差別」や「性別差別」と同列に激しく排される。とくに職業については「年齢差別禁止法」が厳存する。だから職場での定年制はない。年齢による特別に不利な扱いは禁じられる。だから大統領職も単に数字での年齢で適不適は論じられないというわけだ。
ところが日本側での反応はバイデン大統領の81歳という年齢自体が罪であるかのように報じられるのだ。つまりバイデン氏の81歳という年齢だけが不安要因だとする傾向である。バイデン大統領の撤退という事態に対しても、日本側では単に「高齢不安」をあげて、「認知不安」に重点をおく反応は少ないようだ。
アメリカ側ではバイデン氏の場合も81歳という年齢自体が国政舞台での活動を不安にするという批判はほとんでなかった。あくまでバイデン大統領の認知能力の衰退を問題視してきたのだ。
アメリカでは、同じ国政の場でバイデン氏よりも高齢で活発な言動を示す指導者たちが多数存在する。連邦議会の上下両院ではバイデン氏より年長の議員は合計13人、同年齢が2人も健在である。
現役議員の最年長は90歳のチャック・グラスリー上院議員(共和党)だが、対サイバー政策などで活躍する。下院の民主党中枢のナンシー・ペロシ元議長は84歳、上院では共和党院内総務のミッチ・マコーネル議員、民主党の論客のバーニー・サンダース議員がともに82歳である。他に80代後半の議員も数人いる。
これら議員たちへの高齢不安や認知不安が公的に提起されることはない。これら高齢議員たちはバイデン大統領のような虚言、失言、放言をすることがないからだ。しかもこれら高齢議員たちがそれぞれの選挙区で再選を重ねているのは、オープンな政治競合の場で若年や中堅が勝てないからである。
一方、バイデン氏は前回大統領選で民主党の指名を確実にした2020年6月の時点でも認知症疑惑に関する複数の全米世論調査の対象となった。その一つは「バイデン氏は初期の認知症状態にあると思う」という回答が55%という結果だった。同氏が77歳のその時期でも事実と異なる発言を頻発していたのだ。
たとえば特定州のコロナウイルス感染者数12万を1億2千万と述べた。自分が演説をしている州の名を間違えた。自分が副大統領だったオバマ大統領の名前を思い出せないという始末だった。アフガニスタンでの激戦を最前線で目撃したという話を繰り返したが、その場にバイデン氏がいなかったことも立証された。
バイデン氏のこの種の発言の歴史は長い。言葉と事実の離反、さらには言葉への態度の特殊性は年齢とは別の次元をも思わせる。同氏は最初に大統領選への名乗りをあげた1987年の演説でイギリス労働党の当時の党首ニール・キノック氏の演説の言葉をそっくり借用して批判された。剽窃(盗作)と断じられたのだった。
バイデン大統領の現況を正しく理解するにはやはり歴史を含めての複眼的な考察が必要だろう。その歴史をみれば、いま民主党内でバイデン氏への選挙戦撤退を求める声が広まったことも、そしてバイデン氏自身がその声に応じて撤退を決めたことも、理解しやすいだろう。
トップ写真:カマラ・ハリス副大統領がsmize & dreamアイスクリーム店に訪れた時の様子(ワシントンD.C. 2024年6月19日)
出典:Photo by Nathan Howard/Getty Images
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