「8月の平和論」の欠陥とは(下)自衛と抑止を放棄するのか
Japan In-depth / 2024年8月8日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「8月の平和論」は平和をどう守るかについても、語らず、戦争をどう防ぐか、という課題にも触れない。
・どの国も自国の主権や繁栄、安定を守るためには自衛のための軍事能力を保ち、いざという際にはそれを使う意思をも明示する。
・戦争を防ぐための最も確実な方法はその戦争への準備を備え、なおかつ勝利する態勢を整えること。
平和とはなにか。日本での「8月の平和論」はその点が不明確である。
アメリカの歴代政権も国家安全保障の究極の目標として「自由を伴う平和」という政策標語を掲げてきた。その目指すところは、単に戦争がない、というだけではなく、そこに国家や国民にとっての自由がなければ意味がない、という思想である。外国の独裁政権の支配下に入りそうな危機となれば、断固として平和を捨てて、戦うという決意の表明でもある。
オバマ大統領もノーベル平和賞の受賞演説で「平和とは単に軍事衝突がない状態ではなく、個人の固有の権利と尊厳に基づかねばならない」と述べていた。アメリカにとって、あるいは同種の自由民主主義の主権国家にとって、その拠って立つ基本的な価値観が脅かされるときには、平和の状態を破って、その国家の本来のあり方を守るために戦う、という意味だった。
だからオバマ氏は「正義の戦争」という言葉をも使っていた。その前提には「自衛の戦争」という自明の概念があった。
日本での「8月の平和論」は平和をどう守るかについても、語ることがない。戦争をどう防ぐか、という課題にも触れないのがその特徴である。
平和を守るために絶対に確実な方法が一つある。外部からの軍事力の威嚇や攻撃に対してまったく抵抗せず、すぐ降伏することである。相手の要求に従えば、単に戦争がないという意味の平和は確実に保たれる。尖閣諸島も中国に提供すれば、戦争の危険は去るわけである。だがそれでは主権国家が成り立たない。国家の解体にさえつながる。「奴隷の平和」ともなる。
そもそも戦争はどのように起きるのか。
一国が他国に対し、なにかを求め、いろいろな手段でその取得に努め、ついに究極の軍事手段しかなくなってしまった、という状態が戦争の前提である。その取得目標は植民地的支配の排除でもありうる。一国が他国の領土を奪取、あるいは奪回したい場合もある。経済的な資源を取得したい場合もある。あるいは積年の民族の恨みを晴らすという場合さえあろう。
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