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「西行は武士を捨て歌人となった逃亡僧である」文人シリーズ第9回「北面の武士、西行」

Japan In-depth / 2024年10月24日 10時49分

 話を戻そう。現代競馬の最高峰、G1レースの「天皇賞」や「菊花賞」はこの時代に登場したレース名である。といっても、今の府中や京都の淀のような整備された競馬場があったわけではない。「寺社競馬」という命名に明らかなように、この時代の競馬は主に広大な寺社の境内で行われた。なかでももっとも有名なのが、京都の下賀茂神社で毎年5月に行われる天皇臨席の天皇賞競馬だ。馬券は売っていないが、勝手に賭け事にしていたという。


 私の敬愛する作家、嵐山光三郎氏に『西行と清盛』(中公文庫)という著作があり、西行(義清)が騎乗した競馬の場面を設定し、かなり気合を入れて書いておられる。小説であるから、どこまでが史実で、どこまでがフィクションかは氏の流麗な筆致に隠されてまったくわからない。


 義清が任官した年の秋口、崇徳天皇の熊野御幸の安全を祈願する競馬が開催された。義清が人知れず慕う鳥羽上皇の后、待賢門院璋子が観戦にやってきた。(←これはフィクションだろう。畏れ多すぎる)


 出走馬は8頭、騎乗者は義清を含めて8人。以下は嵐山氏が創作した出馬表である。肝心の馬名はなく、騎乗者、毛色・年齢・性別、そして馬の脚質が書いてある。あっ、予想まであった。


1枠 徳大寺公能  青毛牡5歳馬 先行     展開良ければ


2枠 徳大寺梢少将 黒毛牡4歳馬 逃げ     腰に不安


3枠 源渡     白毛牝4歳馬 差脚     期待上位・有力


4枠 平長盛    栗毛牝5歳馬 先行     勝ち目ナシ


5枠 佐藤義清   鹿毛牡4歳馬 追込み    騎手に難あり


6枠 藤原為業   葦毛牝4歳馬 先行     先行できれば


7枠 藤原為経   月毛牝5歳馬 差脚     ムラ馬の気


8枠 藤原俊成   白銀牝5歳馬 逃げ     叩けばヨシ


 1・2枠の徳大寺は上級公家。あるじの左大臣実能(さねよし)は鳥羽上皇の后、待賢門院璋子の兄であるから、その権勢は並ぶものがない。1枠の公能(きんよし)は嫡男、2枠の梢少将は公能のいとこである。3・4・5枠は武士階級で源氏と平家と義清。6・7・8枠は下級公家という構成。6枠の藤原為業は後に出家して寂念となり、7枠の藤原為経も同じく出家して寂超となった。大原三寂と呼ばれる有名な歌人3兄弟の2人である。藤原俊成はいうまでもなく、新古今和歌集の撰者、藤原定家の父である。


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