米下院、TikTok規制法案を可決、若年層有権者への影響に注目（米国、中国）

米国連邦議会下院は3月13日、中国のバイトダンスが運営する動画共有アプリTikTokの規制や売却に関する「外国敵対勢力が管理するアプリから米国人を保護する法案」を賛成多数（注1）で可決した。

法案（H.R.7521）は、TikTokや関連アプリサービス、バイトダンスや関連企業が開発・提供するアプリサービスなどが米国の国家安全保障の脅威との懸念に基づく。法案成立から180日後に、これらアプリサービスの米国内での提供・維持・更新などを禁止し、違反した場合には民事罰や司法当局の強制執行の対象とする。ただし、法案成立から180日以内に、大統領や関係省庁が外国敵対勢力の管理下にないと認めるかたちで適切に分割（qualified divestiture）されれば、アプリサービスの提供などは引き続き認められる。なお、同法案では、TikTokとバイトダンスを明示しつつも、外国敵対勢力が管理するほかの企業にも適用され得る内容となっている。

TikTokは3月6日、利用者の端末に通知を表示し、同法案に反対するよう呼びかけた。これに対して、下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」の超党派議員団は3月11日、法案はバイトダンスに180日の猶予を与えているにもかかわらず、法案に関する虚偽の情報を流布したなどとする書簡をTikTokに送付するなど、強く反発していた。法案審議を主導した下院エネルギー・商業委員会のマクモリス・ロジャース委員長（共和党、ワシントン州）は法案可決を受けて、声明で「外国の敵対勢力が管理するアプリは米国人を標的に、操作や監視を行うために武器化され得る。このような事態を放置することはできない」と述べ、法案の意義を強調した。また「国家安全保障上の脅威に対処するための超党派による入念な努力の結果だ」と述べ、超党派で合意形成が図られたことを強調した。

法案は今後、上院での審議に移る。他方で、ランド・ポール上院議員（共和党、ケンタッキー州）は「本当に情報が漏えいしているのかわからない」「TikTokを国内で禁止している中国と同じことをしても意味がない」と述べ、反対を表明している（議会専門誌「ザ・ヒル」3月12日）。また、上院トップのチャック・シューマー院内総務（民主党、ニューヨーク州）は、関連委員会の委員長と協議して法案の行方を決める必要があると述べ、結論を急がない考えを示しており（AP通信3月13日）、上院での可決は不透明だ。仮に法案が上院でも可決された場合には、ジョー・バイデン大統領の署名を経て成立する。バイデン氏は3月8日、記者の問いに対して「法案が可決されれば署名する」と明言している。

なお、ドナルド・トランプ前大統領は、大統領在職中に企業にバイトダンスとの取引を制限する大統領令を発令するなど、強硬な姿勢を示していたが（2020年8月7日記事参照、注2）、3月11日に「TikTokがなければ（競合する）フェイスブックをより強くしてしまう」などと述べ（注3）、方針転換を示唆している。政治専門紙「ポリティコ」（3月12日）は、トランプ氏陣営の「米国の有権者の3分の1がTikTokを利用している中、有権者が欲しているもの、有権者が利用するものを取り上げることは非常に難しい」とのコメントを引用しつつ、米国内の1億7,000万人の利用者のうち半数が30歳未満として、TikTokが浸透する若年層有権者の支持への影響をトランプ氏が懸念したものとしている。

（注1）賛成352票（民主党155票、共和党197票）、反対65票（民主党50票、共和党15票）、出席1票（民主党1票）、棄権14票（民主党7票、共和党7票）。出席（present）は賛否を示さない票。

（注2）連邦地裁が憲法上の表現の自由などを害するとして、一時差し止め命令を出した後、バイデン大統領がトランプ前大統領令による大統領令を撤回した（2021年6月15日記事参照）。モンタナ州など一部の州でも、TikTok利用を禁止する動きがある（2023年5月24日記事参照）。

（注3）2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件後にメタ（旧フェイスブック）がトランプ氏のサービス利用を禁止したのに対し、トランプ氏は政治的差別などと反発していた。後にトランプ氏の利用は許可されたものの、トランプ氏は主に情報発信の場として、自身で立ち上げたSNSのトゥルース・ソーシャルを利用している。

（葛西泰介）

（米国、中国）