EU理事会、政治合意済みの人権・環境デューディリジェンス義務化指令案を不採択(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年3月5日 15時40分
2024年上半期のEU理事会(閣僚理事会)議長国を務めるベルギーは2月28日、企業活動による人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を企業に課す企業持続可能性デューディリジェンス指令案に関して、EU理事会による正式な採択がされなかったと発表した。今回の指令案は2023年12月に政治合意(2023年12月19日記事参照)したことから、採択が見込まれていたもの。背景には欧州産業界の根強い反発があるとみられる。
指令案の成立には、6月の欧州議会選挙に伴う解散までに両機関の正式な採択が必要だ(注)。ベルギーは今後も採択に向けた取り組みを続けるとしているが、解散前の最後となる4月の欧州議会本会議まで2カ月を切る中、今回のEU理事会の不採択により、指令案の成立は見通せない状況となった。
指令案を巡っては、政治合意後も加盟国から反対が続出。現地報道によると、最終的に半数以上の加盟国が反対あるいは棄権を表明した。特にドイツは、指令案で企業に課す民事上の損害賠償責任の範囲が大き過ぎると反対。フランスも、指令案の対象企業の範囲を大幅に狭める提案をするなど、EU理事会内で合意形成がされていないとみられる。
欧州議会で指令案を担当するララ・ウォルタース議員(オランダ選出)は同日の記者会見で、EU理事会による不採択は欧州議会との合意を軽視するものと強く非難。ドイツ産業連盟(BDI、2023年12月21日記事参照)やフランス最大の経営者団体のフランス企業運動(MEDEF)を名指しした上で、加盟国はごく一部のビジネス界の意見(2023年1月27日記事参照)を聞き過ぎていると批判した。他方で、EU理事会から修正案が出されれば、検討する用意はあるとして、今後の交渉に含みを持たせた。
EUでは2023年以降、政治合意後に一部の加盟国の反対によって法案内容が修正される事態(2023年3月30日記事参照、2023年9月20日記事参照)が続いている。いずれも、法的拘束力のない法案前文の修正や欧州委員会による声明の付帯といった比較的軽微な修正を経て、最終的に採択された。一方で今回は、加盟国の懸念に対応するには、法案の条文の修正が必要になるとみられており、両機関による交渉はより困難になると予想される。
(注)EUの通常立法手続きでは、欧州委が法案を提出、共同立法機関のEU理事会と欧州議会がそれぞれ立場の採択、両機関が交渉の上で政治合意、両機関が正式に採択をすることで法案は成立する。政治合意によって事実上決着するため、政治合意後の修正はまれだ。
(吉沼啓介)
(EU)
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