「絶歌」問題。犯罪加害者の出版は規制できない?
JIJICO / 2015年7月27日 15時0分
「絶歌」問題。犯罪加害者の出版は規制できない?
米国では「サムの息子法」と呼ばれる法律が存在
過去に重大犯罪を侵した人物が、事件に至る経緯や現在までの心境をつづった手記を出版したことで、近時議論がなされています。これについては、被害者遺族が犯罪加害者の出版を規制する法律の制定を求める一方、表現の自由の観点から規制に消極的な意見も出されています。果たしてこの議論、何が問題視されているのでしょうか。
出版への反対意見には、手記の内容によっては被害者が二次被害を受けるため出版自体を禁止すべきという考え、事件の手記を出版することで加害者側が利益を得ることは不当であり、利益は被害者救済に用いられるべきであるなどがあります。
アメリカでは「サムの息子法」と呼ばれる、犯罪加害者が犯罪を題材とする著作に関する権利を販売して利益を上げることを禁止する法律が制定されています。この法律の名前は、1976年から77年にかけてニューヨーク州で発生した、「サムの息子」を名乗る連続殺人事件の犯人に対し、出版社が多額の報酬を提示して手記を執筆させ、利益を上げようとしたことに由来します。
出版自体を規制することは困難
では、日本で、手記の出版を規制する法律、あるいは「サムの息子法」のように出版による利益を法的に押収できる法律を制定することはできるでしょうか。まず、出版自体を規制することは困難であると思われます。憲法が保障する表現の自由は何人にも等しく認められるべきであり、これは犯罪加害者でも同様です。
もちろん、手記の内容が名誉毀損などに該当するような場合には出版の差し止めなどの措置が可能ですが、このような場合に限らず、表現者の属性や表現行為の内容に着目して一律に規制を行うことは許されません。正当な言論の弾圧にもつながるからです。
一定の表現行為による収益を規制する制度も日本では難しい
それでは、サムの息子法のように、一定の表現行為による収益を規制する制度はどうでしょうか。これについても、憲法は財産権の保障を認めており、犯罪行為に該当しない場合で得られた利益を国が没収・押収することは、財産権の侵害に該当する可能性が高いと思われます。また、表現そのものを禁止しなくても、広く表現行為に規制を及ぼすことで表現自体が萎縮する可能性がある以上、表現の自由との関係でも問題となるでしょう。
アメリカでも当初、サムの息子法は規制が広すぎるとして違憲判決が出されたこともあり、その後、規制の対象を犯罪行為に直接関連する収益に限定する改正がなされています。
表現行為規制の是非ではなく、出版社のモラルの問題
私見では、被害者遺族の心情は十分に理解できますが、出版自体の禁止を求めることは憲法上不可能であると考えます。また、出版によって利益を得ることを問題視することもその通りですが、出版を禁止できない以上、得た利益を何に使うかということを問うべきであると思います。
過去にいわゆる「永山事件」の犯人が獄中手記を出版し、その印税を被害者遺族への賠償にあてたことがあります。加害者や出版社が手記の出版で得た利益を被害者救済に用いるのであれば、また違った議論になるのではないでしょうか。ただし、これは前述のように法規制に馴染むものではありません。この議論で問われるべきは、表現行為の規制の是非ではなく、むしろ出版社のモラルの問題ではないでしょうか。
(半田 望/弁護士)
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