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パートタイマーの厚生年金拡大 加入のメリット・デメリット、賢い働き方とは?

JIJICO / 2019年11月29日 7時30分

パートタイマーの厚生年金拡大 加入のメリット・デメリット、賢い働き方とは?

パートタイマーの厚生年金拡大 加入のメリット・デメリット、賢い働き方とは?

政府が年内に取りまとめる方針の、公的年金の制度改正案では、パート従業員への厚生年金の適用が拡大されることに。報道によると、企業規模の要件が、これまでの「従業員501人以上」から、2022年10月に「101人以上」、2024年に「51人以上」へ、段階的に引き下げられる案が出されています。また、一定以上の収入がある高齢者の年金を減額・停止する「在職老齢年金」の基準も見直しに。これまで、60歳~64歳「月28万円」、65歳以上「月47万円」を超えると、減額などの対象になりましたが、「60歳以上・月収47万円超」に、引き上げる考えです。

主婦(夫)やシニアの働く意欲を高め、それぞれ保険料収入の増額や、退職年齢の引き上げにつなげたいと国は期待しているそう。改正のポイントや、賢い働き方を実現するために気をつけたいことを、パートタイマーの労働環境に詳しい社会保険労務士の小倉越子さんに聞きました。

メリットは、将来の年金額が増えること。正しい知識をもとに、「世帯」単位で考えて

Q:改正により、パートタイマーが厚生年金に加入する条件はどう変わる予定ですか -------- パートタイマーが社会保険に加入するパターンは次の3つです。 ① 第1号被保険者として、自分で国民年金の保険料を払う(配偶者が自営業の場合) ② 第3号被保険者として、配偶者の扶養内で、保険料の支払いはなく、国民年金に加入(配偶者が会社員・公務員の場合) ③ 第2号保険者として、パートタイマーで厚生年金に加入

これまでパートタイマーが厚生年金に加入するには、「従業員501人以上の企業」で、「週20時間以上」「月額賃金8万8000円以上」「勤務期間の見込みが1年以上」「学生以外」の条件を満たす必要がありました。従業員が500人以下の企業では、これらを満たし、かつ加入について労使合意がされている場合でした。

今回の改正では、企業規模を示す従業員数が、2022年10月に「101人以上」、2024年に「51人以上」に引き下げられる予定で、加入の対象が広がります。

Q:厚生年金の加入のメリット・デメリットは? -------- 最大のメリットは、社会保険料の半分を会社が負担してくれ、将来の年金の受け取り額が増えることです。万一の場合に、国民年金より手厚い「障害厚生年金」や、あわせて加入する健康保険の「傷病手当」を受給することができます。また、シングルマザーなどでは、子どもにも保険料が発生する国民健康保険でなく、自分の年齢・収入のみで保険料が算出される社会保険に、子どもを「被扶養者」にできることも大きな魅力でしょう。

一方、デメリットは、厚生年金料と健康保険料をあわせた、社会保険料の負担が発生し、手取り収入が減ることです。また、働く時間が一定時間を超えるため、仕事量や業務上の責任も増える可能性があります。

Q:今後、厚生年金に加入しようと考えるパートタイマーは増えますか。 -------- これまでの経験から、いくら制度を拡充しても、加入したくないと思うパートタイマーはまだまだ多いように感じています。大手小売業で人事教育を担当していたころ、パートで働く主婦(夫)に、「スキルを生かして、もっと活躍してほしい」と、勤務時間を増やす提案をする機会が多くありました。ただ、収入増や社会保険加入のメリットを直接話しても、「無理をして働きたくない」と、辞退されるケースがほとんどでした。

また、年代や職業によっても考え方は異なるでしょう。例えば、30代・40代前半は、「育児休暇を取得し、ブランクを作らず、フルタイムで復帰したい」と考える人が多いようです。50代で、すでに配偶者の扶養内で働いている人からは、「今さら働き方を変えたくない」「子育てがひと段落して、やっと自分の時間ができるのに、働くことだけにあてたくない」という声も聞かれます。

一方で、例えば塾講師など、時給2000円前後といった高時給の職業では、短い労働時間でも、すぐに年収130万円を超えて、配偶者の扶養を外れなければならない場合があるため、それならもっと働こうという人が増えるかもしれません。加入の条件緩和が、一様にパートタイマーの働く意欲につながるかどうかは難しいといえそうです。

Q:扶養の範囲内で働く「年収の壁」はどうなりますか。 -------- 基本的に、扶養範囲の上限を大きく超えて働くことができれば、収入が増えるため、税金や社会保険料の負担は、デメリットになりません。扶養内で働きたい人は、所得税や配偶者の税金の控除に関わる「税金上」と、厚生年金加入の「社会保険上」の控除が、手取り収入に影響します。

税金上の扶養範囲は、所得税が発生し、配偶者の扶養手当(会社によって異なる)がなくなる「年収103万円」、配偶者の税金の控除「配偶者特別控除」が段階的に減る「年収150万円」の〝壁〟があります。

大きな影響があるのは、社会保険上の控除です。「年収130万円」を超えると、配偶者の扶養が適用されず、自分で社会保険に加入することになるため、保険料の負担が発生します。企業規模により、加入条件である、月額8万8000円を年収換算した106万円を超えると、対象になる場合がありますので、勤務時間や期間など、ほかの条件もあわせて、自分が当てはまるのかを確認してください。

Q:「在職老齢年金」の基準が引き上げられる予定です。シニアの働く意欲への効果は? -------- 定年退職後の再就職を考えるシニアにとって、「これまでと働き方や収入が変わらない」ことがモチベーションを維持できる要因になるようです。中小企業などで、「できるだけ現役と同じように収入を得たい」と思う人もいれば、大手企業で、退職金などの保障が手厚い場合、「仕事はそこそこで、年金生活を送りたい」という人もおり、働き方も多様化しています。

働くほど年金が減る、現在の「在職老齢年金」の減額対象の基準が、「60~64歳・月28万円」から「同・月47万円」に引き上げられることで、直接影響を受ける人が、「もっと働きたい」と考えている層と同じなのかが疑問です。

Q:次々と変わっていく年金制度。賢い働き方を考える上で、大事なことは? -------- 同じパートをしている主婦(夫)でも、配偶者の雇用形態や年収、定年時期など、世帯の状況によって、最適な働き方は異なります。「職場の人が言っていたから」と、周囲の人が言うことをうのみにするのではなく、自分自身で年金や税金などの正しい知識を身につけることが大切です。インターネットで調べることもできますが、情報が膨大にあるので、つい「自分に都合のいい情報」のみを信じてしまう場合も。会社や行政が、主婦やシニアを対象にした、年金や再就職をテーマにした無料セミナーを行っているので、利用するのもおすすめです。

正しい知識をもって、世帯の状況をきちんと把握した上で、主婦なら、「働くだけではなく、自分の時間を大切にしたい」のか、「保険料の負担が気にならないように、世帯収入を増やしたい」のか、自分らしい働き方をかなえる方法を見つけましょう。

(小倉 越子/社会保険労務士)

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