小倉智昭「男性機能を失いたくないという未練」3度のがん闘病と妻と別居の本音を語る
週刊女性PRIME / 2024年3月16日 21時0分
友人でもある社会学者の古市憲寿との対談で明かした、生い立ちから芸能界、死生観までを綴った書籍『本音』を著した小倉智昭。現在、3度目のがんと闘病中。死と向き合ったことで、終活も始めた。そんな彼がキャスターとしてのこだわり、そして「離れて暮らすとお互いに優しくなれる」という妻との生活について“本音”で語ってくれた。
昔のテレビにあった“間”がなくなった
「言いたいことが言えない世の中になりましたよね」
と、フリーアナウンサーの小倉智昭は嘆く。フジテレビの朝のワイドショー『情報プレゼンター とくダネ!』で22年にわたって総合司会を務めてきた小倉は、言いたいことを言い続けてきた人である。
1999年に同番組の司会を引き受けたときも、譲れない条件があった。
「オープニングで1分でも2分でもいいから自分の言葉でしゃべらせてほしい、と。当時のワイドショーは番組のド頭から事件や事故のVTRを流すのが日常で、現場の血だまりだとか、手錠をかけて引き回される容疑者だとか、生々しい映像を流せば視聴率が取れていたんです。
僕はそういうのがもうイヤで、えげつないVTRを長々と見せてから、“おはようございます”って司会者が登場するのはやめようって言ったんですよ」
こうして始まった小倉のオープニングトークは、時に10分近くにも及び、番組の名物に。視聴率でも他局を圧倒し、『とくダネ!』はワイドショーの新境地を切り開いた。だが、伝えたいことが伝えにくい局面も増えたと小倉は述べる。
「これを言ったら叩かれるなと思いながらしゃべると、案の定、番組のデスクの電話が鳴りっぱなしになって、SNSで炎上しましたよね。言葉にしても、例えば魚屋や床屋はダメ。鮮魚店、理髪店って言わないといけない。そういう点では不自由になりましたし、昔のテレビにあった“間”がなくなっちゃいましたよね」
かつてのテレビが伝える情報には、出演者や視聴者が思いを巡らせる“間”があった。ところが、VTRが多用されるにつれ、その“間”がなくなったと小倉は言う。
「森繁久彌さんに最後にインタビューをしたのは僕だったんですけれども、話の途中で森繁さんが黙り込んでね。何かを考えている表情を注視していたら、突然、“しれぇーとこぉーのぉ”って『知床旅情』を歌い出したんです。そのときの“間”には大事な意味があるのに、VTRを編集する若いディレクターは時間がもったいないからってつまむ(カットする)んです。
僕は番組の編集にまで介入はしませんけれども、反省会では言いましたよ、それじゃ森繁さんの心情は伝わらないって」
小倉のオープニングトークは台本には記されない。スタッフにも事前に知らされない。“間”も含めて自分の言葉でノーカットで語られる小倉節は、視聴者の気持ちを揺さぶった。テーマは政治ネタから街で拾ったエピソードまで多岐にわたった。
下(しも)の話はイメージが悪くなると忠告された
自身が患った病気のことまで、赤裸々に語った。2016年に膀胱がんが見つかると、番組内で公表。'18年に膀胱を全摘出し、代用膀胱造設術を受けたことも告白した。
「見つかった時点で全摘しなさいって言われたんです。だけど男性機能を失いたくないという未練があって、2年間遠回りした。いろいろ調べて、お金も使い、結果的には周辺の前立腺や精嚢も含めて全摘しました。勃起神経は切ったけれども、射精神経は残っているから、ピクッ、ピクッていう男ならわかる快感は覚えるんです。
ただ、精子はつくれないから、ピュッと出たのがおしっこだったりするわけですよ(笑)。そういうことは医師も知らないから、泌尿器の学会に呼ばれて講演したこともあった」
下(しも)の話はイメージが悪くなると忠告するスタッフもいた。しかし、膀胱がん患者の情報が少ないと感じていた小倉は、自分がしゃべることに意味があると考えた。
「例えば排尿の大変さだとか、みんな話したがらないんです。だけど、男だって高齢になれば尿漏れパッドを使う人は結構いるんです。それなのに、なんで男性用トイレにはサニタリーボックスが置いてないのかと声高に言っていたら、高速道路のサービスエリアとか、サニタリーボックスがある男性用トイレは少しずつ増えてきましたよ」
'21年、小倉にとって大きな出来事が3つ重なった。『とくダネ!』の終了、コロナ禍、そして、がんの転移である。見つかった肺がんはステージ4の診断。
「抗がん剤は効かなかったんだけれども、キイトルーダという免疫チェックポイント阻害薬が劇的に働いて肺がんは消えたんです。ところが1年ほどして急激に副作用が出て、死にかけた。病院に駆けつけた女房は、土気色の顔をして震えている僕を見て、覚悟したそうです」
死の淵からは戻ったものの、腎臓の機能は著しく低下。昨年末には赤ワインのような血尿が出て、精密検査をすると左の腎臓に影があった。
「腎盂がんの疑いがあって、陰茎の先から管を通して調べたんですけれども、はっきりしたことはわからなかった。ただ、もしも腎盂がんなら進行が早く、右の腎臓に転移したら余命が短くなるから、左の腎臓を摘出することになったんです。
摘出した臓器を病理検査したら、腎臓をかたどっている筋肉層全体を木の根が張るようにがん組織が覆っていて、非常にタチが悪い、と。僕の場合、キイトルーダで肺がんは消えましたから、最後に残された手段として、またキイトルーダを使うことになりました」
強い副作用に見舞われるかもしれない。右の腎臓が使いものにならなくなって人工透析になる可能性も高い。その状態を受け入れ、小倉は、3度目のがんと闘っている。
離れて暮らすとお互いに優しくなれる
「若いころはね、ぽっくり死ぬことに憧れていましたけれども、それだと命を終える準備ができないじゃないですか。がんの場合は準備ができるんですよね。死にそうになったとき、『とくダネ!』に出演していた古市憲寿くんが僕の遺書代わりになる本を作りましょうって言うんで、つい先日『本音』という共著が出たばかりなんですけど、僕の病気ががんだったから死ぬ前に本を出すこともできたわけで。本の編集者に、腎臓を捨てて延命を選択したって話したら、“じゃあ第2巻が出せますね”って言ってましたよ(笑)」
危篤状態に陥り、死と向き合ったことで、小倉の終活も始まったという。
「絵画、楽器、DVDなど、大量のコレクションが事務所に置いてあったんです。僕が死んでからあわてて処分しても二束三文で買い叩かれるから、今のうちに練馬の自宅に引き揚げて、余生は好きなコレクションに囲まれて暮らせばいいでしょって、女房が言ってくれましてね。家のリフォームから荷物の引き揚げまで、女房が一人で全部やってくれたんで、もう、女房に頭が上がらなくなっちゃった」
大量のコレクションが自宅を占領したことで、小倉の奥さんは母親が暮らす都内の実家に引っ越した。週に何度か妻が夫の家を訪れるという別居状態である。そう聞くと、夫婦関係が崩壊したような印象も受けるが─、
「離れて暮らすと相手を思う気持ちが強くなるんですよ。毎日、おはようとおやすみのLINEは欠かさないし、91歳になる女房の母親も娘が帰ってきたことで以前よりも僕のことを気遣ってくれるようになった。先日、女房が練馬に来たときに、久しぶりに外で食事をしたんです。その帰り道で、何年かぶりに手をつないで歩きましたよ。違和感なくね。一緒に暮らしているとケンカしたりもするけれど、離れて暮らすとお互いに優しくなれるんだね」
と、うれしさを隠さずに話すのも小倉節。夫婦にも“間”はあったほうがいいのかもしれない。
取材・文/伴田 薫
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