なぜ「軽SUV」は販売上位に入らない? 「軽スーパーハイトワゴン」に敵わない訳
くるまのニュース / 2021年5月12日 7時10分
昨今はSUVがブームとなっているのと同時に軽自動車も好調に売れています。そうなると、「軽×SUV」も人気を得ていると思われますが、必ずしもそうではないようです。
■空前のSUVブームでも「軽」となると事情が違う!?
最近は軽自動車の売れ行きが好調です。2020年度(2020年4月から2021年3月)に国内で販売さられた新車のうち、38%を軽自動車が占めました。直近の2021年4月に限定すると軽自動車の比率は40%に達します。
そのために2021年4月のメーカー別販売台数は、1位がトヨタ、2位がスズキ、3位がダイハツ、4位がホンダ、5位が日産となっています。軽自動車を中心とするスズキとダイハツが2位と3位に入るのは、以前は考えられなかったことです。
その一方で、カテゴリー別に見るとSUVの販売も伸びています。SUVはワイルドな外観で存在感があり、それでいてボディの基本スタイルはワゴンなので居住性や積載性も優れています。
SUVの売れ行きを見ると、コンパクトなトヨタ「ヤリスクロス」や「ライズ」、高級モデルのトヨタ「ハリアー」などが販売ランキングの上位に入ります。新車として売られる小型/普通乗用車のうち、約25%をSUVが占めています。
そうなると、軽自動車のSUVモデルは販売が好調だと思われるでしょう。しかし、「軽×SUV」をウリにしたスズキ「ハスラー」やダイハツ「タフト」は、軽自動車販売ランキングの上位には入りません。
2020年度における軽自動車販売ランキングは、1位がホンダ「N-BOX」、2位がスズキ「スペーシア」、3位がダイハツ「タント」、4位がダイハツ「ムーヴ」、5位が日産「ルークス」、6位がスズキ ハスラーと続きます。ダイハツ タフトは12位です。
ただしこの販売ランキングには注釈が必要です。全国軽自動車協会連合会が発表するデータでは、5位のムーヴに派生車の「ムーヴキャンバス」の台数も含まれることです。
ムーヴキャンバスは後席側のドアがスライド式で、車名には共通性があってもクルマの造りは異なります。そしてムーヴの販売うち、ムーヴキャンバスの割合は約60%と多いです。
2020年度にムーヴは10万1183台が届け出されましたが、約6万台はムーヴキャンバスで、残りの約4万台がムーヴになります。ムーヴの販売実績を分割すると、届け出台数は一気に下がり、ムーヴキャンバスがタフトと同程度でムーヴはさらに下回ります。
つまり実質的な軽自動車の販売トップ5は、N-BOX、スペーシア、タント、ルークス、ハスラーという順になります。
このなかで、1位のN-BOXから4位のルークスまでは、すべて全高が1700mmを超える、スライドドアを備えたスーパーハイトワゴンです。スーパーハイトワゴンが軽乗用車の販売総数に占める割合は約50%と多く、このタイプを除いた軽自動車ではハスラーが最上位に食い込んでいます。
なぜここまでスーパーハイトワゴンの人気が高まり、ハスラーは実質5位なのでしょうか。スズキの販売店に尋ねました。
「スペーシアは軽自動車でありながら、車内の広さからシートアレンジ、スライドドアまで、さまざまな機能を高めました。しかもグレードが豊富で、標準ボディとエアロパーツを装着した『スペーシアカスタム』、SUV風の『スペーシアギア』をそろえます。
いまは軽自動車のSUVを希望するお客さまが多く、使い方に応じてスペーシアギアとハスラーを選ばれています」
スペーシアにSUV風のギアが用意されるため、ハスラーがユーザーを奪われている面もあるようです。確かに汚れを落としやすい平らな荷室など、スペーシアとハスラーには共通点もあります。
ディーラーオプションについても、両車とも車中泊を楽しめるクッションやプライバシーシェードを用意するなど、全高や車内の広さは異なりますが、商品の性格は似ているのです。
■軽スーパーハイトワゴンが圧倒的な人気を誇る訳とは
それでもハスラーは2021年1月から3月までに1か月平均で3716台の届け出がありましたが、タフトは2374台に留まります。タフトの売れ行きはハスラーの60%少々です。
タフトが登場したのは2020年6月なので、同年1月に販売を開始したハスラーよりも設計は新しいのですが、なぜ売れ行きが下回るのでしょうか。
軽自動車人気ナンバー1のホンダ「N-BOX」
この背景には複数の理由があるのですが、まず両車では機能が異なることが挙げられます。
ハスラーは後席に左右独立式のスライド機能を採用。背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がり、ワンタッチでボックス状の広い荷室に変更できます。
その点、タフトの後席は座面が固定されてスライドしません。後席は座面の奥行寸法も短いので4名乗車には不向きです。
エンジンについては、ハスラーはすべてのグレードにマイルドハイブリッドを搭載。ターボを装着しない2WDのWLTCモード燃費が25km/Lに達しますが、タフトは20.5km/Lです。
その代わり、タフトは装備を充実させています。価格が一番安い135万3000円の「X」にもガラスルーフの「スカイフィールトップ」やLEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキが標準装着されます。
同じ価格帯のモデルとして、ハスラーには136万5100円の「ハイブリッドG」がありますが、ルーフは普通のスチール製です。ヘッドランプはハロゲンで、パーキングブレーキは足踏み式ですから、装備の水準はタフトが優れているといえます。
しかしすべてのユーザーがスカイフィールトップを必要とするわけではありません。ユーザーによってニーズが異なります。
その点でハスラーの多彩なシートアレンジや快適な後席、優れた燃費性能は、幅広いユーザーに適しているでしょう。
そしてタフトは実質的に現行型が初代モデルなので(以前のタフトは悪路向けのSUVで1980年代に生産終了)、ハスラーと違って先代モデルからの乗り替え需要もありません。
加えてタフトは、先代ハスラーの登場から6年後に発売されたので、どうしても後追い商品的な印象を受けます。このような事情により、タフトの売れ行きはハスラーの60%少々に留まっているのです。
一方、N-BOX、スペーシア、タント、ルークスといったスーパーハイトワゴンは、好調な売れ行きを保ちます。広い室内に多彩なシートアレンジ、スライドドアの採用など、実用性を高める要素が豊富に揃うからです。
スーパーハイトワゴンを選べば、家族4名のドライブから自転車のような大きな荷物の運搬までさまざまなニーズに対応できます。この安心感と利便性は大きいです。
スーパーハイトワゴンは多用途性があるので、子供の成長などに合わせて車種を変える必要もありません。
軽自動車だから独身者が使ってもムダがなく、結婚して子供が生まれるととくに優れた実用性を発揮します。
さらに、子育てを終えてミニバンから小さなクルマに乗り替えるユーザーにもピッタリです。夫婦2人の生活に戻っても便利に使えるでしょう。
いまは軽自動車とSUVが人気のカテゴリーになりましたが、スーパーハイトワゴンは従来型からの乗り替え需要まで含めてユーザーの人口が圧倒的に多いです。
そのためにSUVタイプの軽自動車が、販売面でスーパーハイトワゴンを追い抜くのは難しいのです。
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