日本どうなる? EV旋風で中国が日本を凌駕する日は来る? 変わりゆく自動車産業の今後
くるまのニュース / 2021年5月23日 14時10分
中国の自動車産業が目まぐるしい成長を遂げていますが、欧米や日本の自動車産業を凌駕する日は来るのでしょうか。
■世界最大の自動車販売国から、世界最大の自動車生産国へ
近年、成長著しいといわれる中国の自動車産業ですが、欧米諸国、そして日本の自動車産業を凌駕する日は訪れるのでしょうか。
かつて「眠れる獅子」といわれた中国ですが、現在では完全に覚醒し、アメリカと並ぶ超大国にまで成長しています。
2000年代以降、急速に経済成長した中国は、あらゆる産業でその影響力を強めていますが、それは自動車産業についても例外ではありません。
現在、世界全体における年間の新車販売台数は9000万台強ですが、そのおよそ30%弱にあたる約2500万台が中国市場で販売されています。
ここ数年は以前ほど伸長していませんが、中長期的に見れば3000万台から4000万台規模まで成長するという予測もあります。
中国の新車販売台数が、世界トップに躍り出たのは2009年のことです。
そこから1度も首位の座を明け渡していないことからもわかるように、すでに中国は自動車販売国として世界最大の市場であることは明らかな事実です。
筆者(瓜生)は、2012年から毎年のように国内外、そして中国各地のモーターショーなどを取材していますが、展示される車両の台数や、会場の規模といった定量的な部分はもちろん、各メーカーの意気込みや、現地および海外メディアの熱気といった定性的な部分を見ても、中国のモーターショーは世界随一だといえます。
一方で、ビジネスの世界では「チャイナ・リスク」という言葉があるように、中国特有の「危うさ」を感じるのも事実です。その代表的な例が、デザインや技術の模倣、いわゆる「パクリ」の問題です。
はじめに付け加えておくと、デザインや技術の類似性を法的に証明するのは非常に困難であり、感情論や印象論だけで「パクリ」と断ずることはさまざまな危険をはらむことになります。
しかし、それを加味したうえでも、「パクリ」と感じざるを得ないクルマを会場でしばしば見かけるのも事実です。
また、中国では外資系自動車メーカーが中国国内で新車を生産・販売するためには、原則として現地の自動車メーカーと合弁企業を設立する必要があります。
中国側の視点で見れば、潤沢な自国の市場と引き換えに技術や生産ノウハウを共有してもらうための戦略です。
この戦略自体はまったくアンフェアなことではありませんが、予期し得ない技術流出などといったリスクがつきまとうことは否めません。
さまざまなリスクがあるとはいえ、世界各国の自動車メーカーが中国市場に注力するのは、それほどに13億人を超える人口を擁する中国市場が魅力的だからにほかならないでしょう。
しかし、中国の自動車産業には次の戦略があります。2015年に発表された「中国製造2025」という国家戦略で明らかにされた、「2025年に世界の自動車強国の仲間入りをする」という内容がそれにあたります。
「自動車強国」という言葉が、アメリカやドイツ、そして日本といった国々を意味していることは明らかです。
前述した世界の新車販売台数9000万台強のうち、これら「自動車強国」の自動車メーカーが生産しているのはおよそ70%から80%に及びます。
あと5年足らずで、中国はこれらの国々に比肩する自動車生産国として名乗りを上げ、近い将来に自動車生産国としても世界最大級になるという意志を明確に示しているのです。
■EVで「自動車強国の仲間入り」を果たす
世界中で目にすることのできる自動車ですが、自動車を基幹産業としている国は驚くほど少ないのが現実です。
これは、自動車の開発や生産には非常に高度な技術と、莫大な設備投資が必要であることが大きな理由です。
経済成長の著しい中国に関していえば、設備投資をおこなう費用はほとんど問題にならないでしょう。しかし、技術面でいえば、まだまだ不安要素があるのも事実です。
自動車の開発において最初のハードルとなるのが、エンジンです。自動車の心臓部であるエンジンは、いうまでもなくもっとも重要な部分であり、エンジンの性能が自動車の性能に直結します。
もちろん、中国製のエンジンを搭載したクルマも存在しますが、燃費性能やパワーといった点で、日欧米の自動車メーカーによるものが圧倒的に有利となっているのが現状です。
エンジンの開発・生産をはじめとした技術面での課題を解消するために、中国の自動車メーカーは日欧米の自動車メーカーやサプライヤーと技術提携をしたり、あるいは買収をしたりするなどしてその技術を得ようとしていますが、日欧米に一日の長があり、その差を埋めるのは簡単ではないようです。
そこで、中国が「自動車強国の仲間入り」をするためのカギとしているのが「新エネルギー車(新エネ車)」です。新エネ車に含まれるのは、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)であり、ハイブリッド車(HV)は含まれていません。
中国政府は、新エネ車に対して税制優遇などの措置をとっており、国家として新エネ車の普及を強烈に後押ししています。
現時点では、販売されている新エネ車のほとんどがEVであり、事実上のEV優遇施策と見ることもできます。
GM五菱の「宏光mini」というモデルは、日本円で約60万円という破格なうえに、性能も必要十分。
中国がEV(新エネ車)を優遇する背景には、もちろん環境問題への配慮という視点もありますが、その根底には「自動車強国の仲間入り」という壮大な目標があります。
内燃機関(エンジン)を持たないEVは、開発・生産の面において既存の自動車とは異なる部分が多く、エンジン車のノウハウをそのまま転用することはできません。
また、EVにおける心臓部であるバッテリーは、既存の自動車メーカーが開発・生産することは現実的には難しく、サプライヤーから供給を受けることになります。
つまり、EV分野においては、自動車メーカーといえども必ずしも有利に立てるわけではなく、少なくともエンジン車に比べて、同等のスタートラインから勝負することができるといえます。
中国はその豊富な資金力を活かして、EV(新エネ車)で「自動車強国の仲間入り」を果たそうとしているのです。
■国力の強さが如実に表れるのが自動車産業
さて、ここで本稿のタイトルである「中国の自動車メーカーが日本の自動車メーカーを凌駕する日は来るのか?」という点について、私見を述べたいと思います。
もし、ここでいう「自動車」が、従来のガソリンエンジン車の延長線上にあるものを指すのであれば、近い将来、少なくとも10年から20年のうちに、質・量ともに日本の自動車メーカーが中国の自動車メーカーの後塵を拝するということをないでしょう。
それほどに、日本の自動車メーカーが積み重ねてきた歴史は重く、強固なものだといえます。
一方、新エネ車、とくにEVという視点で考えるのならば話はまったく変わります。
もちろん、日本も優れた技術は有していますが、日本のように各メーカーがそれぞれ、既存のガソリンエンジン車との兼ね合いのなかで開発・生産を進めるのと、中国のように、国策としてEV開発に邁進するのとでは、そのスピード感は異なるでしょう。
その一例として、バッテリー(リチウムイオン電池)があります。EVにとってバッテリーが心臓部であることは前述のとおりですが、EV用バッテリーのトップシェアはCATLという中国の国策企業です。
バッテリーの製造に必要なレアメタルの入手をめぐって各国が戦略的に動いており、そこでは国力の差が大きく現れます。
航続距離や出力、安全性などの面で、EV用バッテリーはまだまだ改善の余地があるとされていますが、そもそもそのバッテリーのトップシェアを握っている中国がその開発においても有利であることは否めません。
結局のところ、「中国の自動車メーカーが日本の自動車メーカーを凌駕する日は来るのか?」という問いは、「これからもガソリン車は生き残るのか、あるいはEVの時代になるのか」という問いと同義になります。
この点については、現在さまざまな議論が噴出している過渡期であり、簡単に結論を出すことは難しいというのが本音ですが、程度の差こそあれど、各地域でいま以上にEVが存在感を増すのは間違いないでしょう。
2021年1月9日に中国で発表された新興EVメーカーNIOの新型EV「ET7」。2022年には全固体電池車を発表予定となり、今後の次世代EV市場をけん引するか注目される
筆者も、中国ではNIOのSUV「ES8」をはじめとする最新のEVに触れ、試乗する機会がありましたが、少なくとも目に見えるレベルの粗さは感じません。
もちろん、すべての中国産EVが世界基準の品質を持っていることはなく、ピンキリであるとは思いますが、「ピン」はかなりのレベルに達していることを実感しました。
そして、そのNIOは2021年5月にノルウェーでの正規販売を開始するなど、ついに中国以外へと進出をはじめています。
いまはまだ自動車産業における小さな動きに過ぎませんが、今後徐々に中国自動車メーカーの海外展開も加速していくことでしょう。
※ ※ ※
中国の自動車産業が日本の自動車産業にとって大きな脅威となりつつあることは疑いようのない事実です。EV化が進めば進むほど、中国にとっては追い風になることでしょう。
一方で、日本の自動車産業が培ってきたさまざまなノウハウは、EVにおいても活用できるものです。
よいクルマとは、バッテリーのようなコア部品だけでできるものではなく、デザインや走行安定性、使い勝手、さらにいえば、販売やアフターサービスなども含めたトータルで成り立つものです。
日本の自動車産業の強みを最大限に活かしつつ、筆者は、さまざまな国や企業が切磋琢磨し、次の100年の自動車産業が形成されていくことを期待しています。
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