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エンジン始動時「待ち」と「様子見」必要だった!? もはや懐かしい「ディーゼル車」始動の「ナゾ儀式」とは

くるまのニュース / 2023年6月13日 14時10分

昨今のクルマで、エンジンを始動するために特別な作法は必要ありません。しかしかつてのエンジン、なかでもディーゼルは「儀式」が求められたといいます。

■ドライバーが始動前にエンジンの様子を「推察」する!?

 イマドキのエンジンは、ボタンを押せばすぐかかりますが、かつては一定の「儀式」が必要だったといい、なかでもディーゼルエンジンは特殊でした。
 
 ディーゼルエンジンを始動させるためには、どういったことが行われていたのでしょうか。

 まず、あらためてディーゼルエンジンの概要について紹介します。

 軽油を燃焼させて動くディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べ、エンジンの回転数を上げなくても高いパワーを発揮します。

 そのため、ボディが大きく荷物や人をたくさん載せる大型トラックやバスを中心に、搭載されてきました。

 乗用車への普及はなかなか進まなかったのですが、第一次オイルショック後の1977年頃から、第一次ディーゼルエンジンブームが起こりました。

 当時はトヨタ「クラウン」や日産「セドリック」などの大型乗用車を中心に、小型トラック用のエンジンを流用して搭載していました。

 その後、ガソリン価格が上がるたびにディーゼルエンジンがブームになることを繰り返します。

 ところが、当時のディーゼルエンジンは振動や騒音が大きいうえ出力も小さく、そのためにタクシーなどの営業車仕様や中・下位グレードにしか設定されないなど、不遇の時代が続きました。

 その後、完全コンピュータ制御のコモンレール式ディーゼルエンジンが実用化。

 国内でも2010年には日産がSUVの「エクストレイル」(2代目)に、そして2012年にはマツダが同じくSUVの「CX-5」にクリーンディーゼルエンジンを搭載されると、急速に普及したのです。

 そんなディーゼルエンジンの始動は、ガソリンエンジンとどう違うのでしょう。

 エンジンは内部に空気を吸い込み、空気を強く圧縮して温度を上げます。

 そこに軽油を霧状に噴射すると、熱くなった空気と軽油が混ざって軽油は自分から燃え始めます。

 この軽油が燃える勢いを利用して、エンジン内部のピストンを強く押し下げてパワーとしているのです。

 しかし、エンジンの温度が低い時にはそうはいきません。

 空気を圧縮しても熱がエンジンの金属部分に逃げてしまい、温度が上がらないのです。

 そのため、低い温度の空気中に軽油を噴射しても軽油は燃えず、エンジンは始動できません。

 そこで、エンジン内部にグロープラグという一種の「電気ストーブ」の役割を持つ機構を装着して、電気を流して空気の温度を上げるようにしています。

 エンジン温度が低い時にはグロープラグに電気を流す、と言葉で書くのは簡単ですが、グロープラグの温度が上がるまでに、十数秒間も待つ必要がありました。

 現在のディーゼルエンジンにもグロープラグは装着されていますが、改良によって作動が必要なのはエンジンの温度が氷点下のとき、しかも作動時間も数秒間と、非常に短くて済むようになっています。

 あわせてプッシュスタートスイッチ式のクルマが増えたこともあり、ドライバーが待ち時間を意識することはほとんどなくなりました。

■うまく始動するのも失敗するのも「ドライバー次第」だった!?

 グロープラグにも進化の過程がありました。

 まず「キースイッチ式グロー」の時代から振り返ってみましょう。

メーター内にインジケータ表示があるディーゼルエンジン搭載車の例[写真は日産「グロリア」(2.8リッター直列6気筒LD28型ディーゼルエンジン搭載車)]メーター内にインジケータ表示があるディーゼルエンジン搭載車の例[写真は日産「グロリア」(2.8リッター直列6気筒LD28型ディーゼルエンジン搭載車)]

 ディーゼルエンジンには点火、すなわちイグニッションシステムがないことから、ガソリンエンジンではイグニッションスイッチと呼ぶスイッチを、エンジンスイッチと呼びます。

 何だか「つける」スイッチのような名前ですね。

 現在のイグニッションスイッチは「LOCK-ACC-ON-START」の4ポジション式ですが、エンジンスイッチではONとSTARTの間にグロー位置を設定していました。

 ドライバーは、エンジンを始動するときに、エンジンの温度が低いかどうかを考慮します。

 低いであろうと感じたときは、エンジンスイッチをいきなりSTARTにせず、グロー位置に保持します。

 すると、グロープラグに電気が流れるとともに、メーターの中にはグロープラグ通電中を知らせるインジケータランプが点灯します。

 グロープラグの温度が上がってくると、インジケータランプの明るさが徐々に暗くなっていきます。

 ドライバーはインジケータランプが完全に消えるのを待って、エンジンスイッチをSTART位置まで回します。

 するとスターターモーターが作動して、初めてエンジンを始動出来るのです。

 この時、グロー位置にせずにいきなりSTART位置にすると、スターターモーターは回るものの軽油は燃えてくれず、いつまでたってもエンジンを始動できません。

 そんなことをしているうちにバッテリーを上げてしまったり、スターターモーターを焼損させてしまうこともありました。

 もちろん、エンジンが十分に温まっているときには、グロー位置を飛ばしてSTART位置までスイッチを操作します。

 グロー位置に保持しても良いのですが、バッテリーの電気が無駄になるうえに待ち時間も無駄になりますから、そんなことはしません。

 すなわち、うまく始動するのも、始動に失敗するのもドライバー次第だったのです。

 このように、ディーゼルエンジンはグローの取り扱いに慣れが必要でした。

 第一次ディーゼルエンジンブームの頃、上手に使いこなせた人はどれだけいたのでしょうか。

■コンピュータ制御などの普及で1980年代に進化したディーゼルエンジン

 次にディーゼルエンジンがブームになったのは1980年代前半でした。

 この時代はコンピュータ制御ブームやセラミックブームの時期でもあり、家電メーカーからは次々にパーソナルコンピュータやセラミックファンヒーターが発売されました。

三菱 2代目「パジェロ」マイナーチェンジで設定された2.8リッターディーゼルターボエンジン搭載車三菱 2代目「パジェロ」マイナーチェンジで設定された2.8リッターディーゼルターボエンジン搭載車

 そんななかで、クルマのグロー制御にもコンピュータ制御やセラミックを採用したグロープラグが導入されていきました。

 この方式では、エンジンスイッチはイグニッションスイッチと同様のパターンになり、グロー位置はありません。

 そこでドライバーは、まずエンジンスイッチをON位置に保持します。

 するとコンピュータはエンジンの温度を調べ、適切なグロー時間を算出します。

 あわせて、ドライバーに待ち時間を伝えるためのインジケータランプを点灯させます。

 コンピュータはグロープラグに電気を流すのですが、グロープラグの性能向上で非常に早く温まるようになりました。

 エンジンの始動が可能になる時間が来ると、グロープラグに通電中でもインジケータランプを消してエンジン始動可能であることをドライバーに伝えます。

 ドライバーはインジケータランプ消灯を確認後、エンジンスイッチをSTART位置まで回して、スターターモーターを回します。

 とはいっても、ドライバーはミスをするものです。

 インジケータランプ点灯中でも、ドライバーはエンジンスイッチをSTART位置に回せます。

 慣れていないドライバーでは、エンジン内部の空気の温度はまだ上がっていないのにエンジンを始動させようとして、長い時間スターターモーターを回したり、エンジンを始動できないケースもありました。

 コンピュータ制御により、ドライバーはインジケータランプを確認するだけで良くなりましたが、すべてのドライバーがインジケータランプを確認していたかどうかはわかりません。

 ともあれ、このようなコンピュータによるグロー制御により、ディーゼルエンジンのハードルはかなり下がりました。

 自動車メーカーは誰でも扱いやすくなったディーゼルエンジンと自社の先進性をアピールするために、先進性を感じさせる命名をします。

 三菱は、コンピュータ制御のものを「オートグロー」、さらに待ち時間が短くなったものを「スーパークイックグロー」と呼んでいました。

 いすゞは「クイックスタートシステム」と命名し、「QSS」という略称を使用していました。

 グローのことだけなのに大げさな感じがしますが、当時は画期的なことだったのです。

■21世紀に入り普及した「クリーンディーゼルエンジン」

 そして2000年代半ば頃から、乗用車にコモンレール式ディーゼルエンジンが採用されるようになりました。

 コンピュータ制御で軽油を噴射する方式ですが、排気ガスがきれいになり、パワーも大幅に向上しています。

 そのため、クリーンディーゼルエンジンとも呼ばれるようになりました。

2008年に追加設定された日産「エクストレイル 20GT」(クリーンディーゼルdCiエンジン搭載モデル)2008年に追加設定された日産「エクストレイル 20GT」(クリーンディーゼルdCiエンジン搭載モデル)

 しかもコモンレール式は、エンジン内部に正確に直接軽油を噴射するため、エンジン始動性も極めて向上しました。

 一方で、空気を圧縮して軽油を噴射するというディーゼルエンジンの基本は変わらないために、グロープラグは引き続き採用されており、名称はなくてもコンピュータ制御が行われています。

 グローを作動させる時期も、エンジン温度が氷点下の時だけなどごく限られた時だけになりました。

 併せてプッシュスタートスイッチが普及した時期でもあるために、ドライバーはいつも通りプッシュスタートスイッチを押すだけで良くなっています。

 コンピュータは、プッシュスタートスイッチが操作されるとエンジン温度に応じたグロー作動時間を算出します。

 算出された時間だけインジケータランプを点灯させつつグロープラグにも通電し、グロープラグが適温になった時にスターターモーターを駆動してエンジンを始動するのです。

 始動がとても簡単になったディーゼルエンジンですが、その陰には先人たちの苦労が詰まっているのです。

 グローの作動時間は最長で十数秒間と言えど、待ち時間が必要なことは事実です。

 消防車など緊急出動が求められる車両ではかつて、大型トラックベースながらガソリンエンジンを搭載することがありました。

 ガソリンエンジンは、回転数が低い時のパワーはディーゼルエンジンよりも低いのですが、エンジンの始動に要する時間は短くて済むからです。

 火事が起こっているのにグロープラグの温度が上がるまで出動できないのでは、救える命も救えなくなりますよね。

※ ※ ※

 ディーゼルエンジンには、内部の構造の違いで予燃焼室式、渦流室式、直噴式という分類がありました。

 初期の直噴式エンジンではグロープラグが使用されず、替わりにエンジンが吸い込む空気を一種の電気ストーブで加熱して吸い込ませる、インテークエアヒーター式というものもありました。

 インテークエアヒーター式でもグローインジケータランプがあり、変な感じがしたものです。

 このようにグロープラグが作動する機会が減り、作動時間もすっかり短くなったために、現代ではグロープラグの存在すら忘れ去られようとしています。

 一方でSUVの普及による冬季レジャーの活性化で、世の中で走っているディーゼルエンジン車のグロープラグ作動時間を合計すると、もしかしたら以前よりも長くなっているかもしれません。

 グロープラグは、ヘアードライヤーや電気ストーブ以上に電気を消費します。

 ディーゼルエンジンはスターターモーターも大型のものを使用しているために、ガソリンエンジン以上に電気を使用します。

 バッテリーは、冬の間たくさんの電気が取り出され、エンジンがかかったら今度は急速に充電されるという、過酷な状況にさらされています。

 ディーゼルエンジン車のオーナーは、春になったらバッテリーを点検してもらい、劣化していたら新品に交換するとよいでしょう。

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