立方体型の超原子が結合した二次元シートを創出 〜高効率な水素発生触媒の開発に期待〜
共同通信PRワイヤー / 2024年7月26日 16時0分
4.研究の詳細
本研究では、ナノ空間を活用した独自のテンプレート反応(注5)によってMo4S4クラスターがシート状に配列した超原子層(Mo8S8Cl11)の合成に成功しました(図2)。研究チームは、塩化モリブデンと硫黄の蒸気をカーボンナノチューブの内部空間で反応させると、Mo4S4超原子がCl原子を介して結合した超原子層が成長することを発見しました。数ナノメートル径の一次元ナノ空間で化学反応を起こすことにより、欠陥や乱れの少ないMo8S8Cl11の単層が形成します。この単層を透過電子顕微鏡で観察したところ、Mo4S4クラスターからなる六方最密充填構造のシートがCl原子の層を挟んで上下で結合した二重層構造をもつことが明らかになりました(図3)。歪みが小さな二重層構造をとることで、シート状でも安定に存在することができます。
また本研究チームは、基板上に成長した数マイクロメートルサイズの層状物質の中にもこの超原子層が存在することを見出しました。この層状物質から剥離した単層・数層や層状物質の断面を透過電子顕微鏡で観察することにより、ナノチューブ内部と同じ二重層構造をもつMo8S8Cl11のシートが形成していることを実証しました(図4)。理論計算では、Mo8S8Cl11は圧縮や引っ張り歪みに敏感な半導体であり、わずかな応力で発光する可能性も示唆されました。さらに、薄片試料の表面における触媒活性を調べたところ、水素発生触媒として有望な二硫化モリブデン(MoS2)よりも高い活性を示すことが明らかになりました。
5.研究の意義と波及効果
今回の研究では、立方体型のMo4S4クラスターがシート状に配列した超原子層を世界に先駆けて実現し、透過電子顕微鏡を用いた直接観察によって原子配列を解明するとともに、水素発生反応の高い触媒活性を示すことを実証しました。今後、構造制御や大面積合成の技術が発展し、触媒反応機構が解明されれば、水素発生反応の触媒効率を向上させるための合理的な材料設計指針の構築に結びつくことが期待されます。また、遷移金属カルコゲナイドのクラスターは構造・組成の多様性が豊富な物質群であり、同様の合成アプローチによって多彩な超原子層を実現できる可能性は高く、さまざまな物性・機能の創発を探索する研究基盤となることが見込まれます。
6.論文情報
(タイトル)Superatomic Layer of Cubic Mo4S4 Clusters Connected by Cl Cross-Linking
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