ハイエントロピー化合物におけるイオン拡散の解明 〜高融点と高イオン透過率を持つ新奇材料開発に期待〜
共同通信PRワイヤー / 2024年9月2日 14時0分
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408305652-O3-4z5oq70b】
次に、各カチオンのフレンケル欠陥の形成頻度を解析したところ、In+が一番多く、次にAg+、In3+となることがわかりました。シミュレーションでは、In+とIn3+のイオン半径を同じに設定しているため、電荷が小さい方がフレンケル欠陥を形成しやすいことがわかります。また、In+とAg+では、In+の方がイオン半径が小さいため、イオン半径が小さい方がフレンケル欠陥を形成しやすいことがわかります。
このことを定量的に示すため、フレンケル欠陥のない状態から、あるカチオンだけをフレンケル欠陥に向かって動かしたときのポテンシャルエネルギー変化を調べました。電荷が小さいカチオンでは、エネルギー障壁(極小値と極大値の差)が小さくなり、イオン半径が小さいとフレンケル欠陥の極小値がより小さくなることがわかりました(図4)。この結果は、形成頻度とよく一致しています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408305652-O4-4qz6Pt9I】
・協同的拡散
さらに、フレンケル欠陥が生じにくいPb2+の拡散機構を調べました。まず、フレンケル欠陥による拡散を評価するため、Pb2+とTe2-の1対を取り除いたショットキー欠陥(原子欠陥)による拡散の寄与を調べました。図2の破線は、この条件下でのPb2+の平均二乗変位を表しています。AgInSnPbBiTe5とPbSnTe2の両方において、平均二乗変位はショットキー欠陥を導入しても変化しません。一方、ショットキー欠陥と異なり、フレンケル欠陥形成では、局所的なエネルギーポテンシャルが大きく変化します。そのため、カチオンの動きが互いに影響し合い、より大きなサイズと電荷を持つカチオンでも拡散が起こります。この協同的な拡散はフレンケル欠陥の形成を介したもので、多成分系に特有のものであることがわかりました。
5.研究の意義と波及効果
本研究では、ハイエントロピー型金属テルライドAgInSnPbBiTe5に焦点を当て、ハイエントロピー化合物におけるイオン拡散メカニズムを調べました。その結果、フレンケル欠陥が自発的に形成され、カチオンが格子間空間に移動し、拡散を著しく促進することが明らかになりました。ここで、電荷とサイズの小さいカチオンがフレンケル欠陥の形成に重要な役割を果たしていることがわかりました。また、大きなサイズと電荷を持つカチオンも協同的に拡散することがわかりました。
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