トンボの複眼から金型を作製
共同通信PRワイヤー / 2024年11月7日 14時0分
研究の経緯
産総研ではこれまで金属成膜に一般的に利用されるマグネトロンスパッタのプラズマ制御技術を開発してきました。マグネトロンスパッタはプラズマの力でいろいろな材料を微粒子として飛ばすことが可能な成膜プロセスで、タングステンを代表とする高融点金属も材料として使用できますが、材料から放出された電子が装置の磁場により加速されて原型へ衝突し、原型を加熱してしまう問題がありました。産総研が開発した制御技術では、磁力線を用いて加速電子を封じ込めることができます。温度上昇の原因となる加速された電子を原型に当てないことで熱ダメージがわずかしか生じません。そのため、熱に弱い材料でも金属薄膜を成膜することができます。
本研究では、この技術を活用し、さらに金型となる金属薄膜を厚膜化する技術の開発に取り組みました。
研究の内容
本研究では、立体構造を持ち、数十マイクロメートルのレンズ構造とさらにその表面にナノスケールの不規則構造が存在するトンボの複眼を熱に弱いナノ構造原型として用いました。低温成膜によりトンボ複眼表面に形成された金属薄膜を、ニッケル浴を用いた電解めっきで微小構造を保存したまま厚い金属膜にしました。図1にトンボ複眼への金属成膜から金型作製、複眼レンズの流し込み成型に関する各ステージでの構造観察結果を示します。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202410158079-O2-iGc2buG1】
作製した金型を用いて、透明性や屈折率が比較的高いエポキシ樹脂を流し込み180 ℃で硬化し成型すると、多数の個眼を表面に配置した成型品が得られました。このレンズを用いて産総研の英字ロゴ(AISTロゴ)を観察すると、それぞれの個眼がレンズとしての機能を有することが示されました(図2)。トンボ複眼のレンズにはナノスケールの不規則構造から生じる防曇機能があることが知られています。作製したナノ構造金型を用いて成型したレンズは約10分間の水蒸気の暴露試験においても表面への水滴付着による像のぼやけなどの影響がなく、防曇機能が再現できることを実証しました。これは生体組織の複雑で不規則なナノ構造を2万個以上のレンズ表面に1プロセスで付与することに成功した世界初の例となります。ナノ構造の金型を作製する際に、安価で微細加工が容易な低融点の樹脂などを原型の素材に使用することが可能となります。
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