高周波通信に貢献する圧電薄膜の作製に成功
共同通信PRワイヤー / 2025年1月21日 14時0分
下線部は【用語解説】参照
開発の社会的背景
近年、スマートフォンなどを用いた無線通信では、高い周波数の帯域が利用されるようになり、これに対応した周波数フィルターの需要が高まっています。周波数フィルターの一種である弾性波フィルターでは圧電材料が使用されており、高い周波数帯域の通信には高い圧電性能が要求されます。窒化アルミニウム(AlN)は圧電性を有し、高い音速とQ値を持つため弾性波フィルターに適した材料です。このAlNにScを添加した材料(ScAlN)で圧電性能が大きく向上することが見いだされ、スマートフォンに多く搭載されている弾性波フィルターとして実用化されています。今後の通信方式の進化に伴い、より高い周波数帯域(数ギガヘルツ以上)に対応したデバイスを実現するには、ScAlNなどの圧電性能をさらに高め、高周波に利用できる弾性波フィルターを作製することが重要になります。
これまで第一原理計算を用いたシミュレーションによると、AlNに60~70 mol%のScを固溶させると、純粋なAlNに比べてScAlNの圧電定数は最大で10倍以上になることが予測されています。しかし、ScはAlNに混ざりにくい性質があり、Scを高濃度にするほど物質としての安定性が低下してしまうため、Scを高濃度(43 mol%以上)に添加したScAlN薄膜では、圧電性能を発揮するための高い結晶性や配向性を維持することが困難です。したがって、従来の反応性スパッタリングによる薄膜作製ではScAlNの圧電性能をさらに高めるには限界に達している状況にありました。高周波帯域に対応した弾性波フィルターを作製するためには、高濃度にScを添加したScAlNの結晶性や配向性を高める技術が必要です。
研究の経緯
産総研は株式会社デンソーと共同で世界に先駆けて高い圧電性能を持つScAlNの薄膜を開発してきました(2008年11月21日 産総研プレス発表)。今回、ScAlNと同じ結晶構造を持つルテチウム(Lu)金属を下地層としてScAlNの薄膜に導入することで、ScAlN薄膜の成長時に結晶性と配向性の低下を抑え、Sc固溶量を拡大し高い圧電定数を得ることができました。
なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会 科研費若手研究 「AlN系圧電薄膜の固溶限拡大に関する研究」(課題番号:21K14503)、科研費基盤研究(B)「多元窒化物の高い圧電性の実態に迫るオペランドXASによる局所構造と元素物性の解析」(課題番号:23K23052)および科研費基盤研究(B)「窒化物圧電薄膜におけるミクロ組織の設計ストラテジーの確立」(課題番号:24K01592)による支援を受けています。
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