社説:スポハラ 「怒らぬ指導」広げたい
京都新聞 / 2024年5月2日 16時0分
スポーツ現場で続く暴力やパワハラの問題で、日本スポーツ協会は2023年度に寄せられた窓口への相談件数が統計を取り始めた14年度以降で、最多の485件になったと発表した。
前年度から約1.3倍で、新型コロナウイルス禍をはさんで増加傾向が続いている。
13年にスポーツ界で「暴力行為根絶宣言」が採択され、昨年からは暴力や暴言などの抑止を目指す「NO!スポハラ」活動が展開されている。以前に比べると声を上げやすくなり、表面化してきた要因も大きいだろう。
同時に、パワハラの根深さを見せつけている。「愛のむち」で強くなれると暴力を正当化する指導者がなおも絶えず、数字は氷山の一角にすぎまい。対策をいっそう強めねばならない。
相談件数の内容で最も多かったのが暴言の約4割で、暴力も1割ある。「ばか」「おまえなんかいらない」などの罵倒を中心に、心に傷を負わせるような「陰湿化」への対応が欠かせない。
協会では指導者向けの講習を座学ではなく、選手への質問の仕方などを考えたり、悩みを話し合ったりする形に切り替えた。
国が進める公立中学校部活動の「地域移行」でも、民間指導者への効果的な研修が重要だ。
日本スポーツ少年団本部長で元バレーボール日本代表の益子直美さんは、自身が体罰を受けた経験を踏まえ、「監督が怒ってはいけない」というルールを設けて各地で大会を開く。
感情的にならず、いかに効果的に長所や課題を伝えるかを考えてほしいと指導者に促している。バスケットボールなど他競技にも広がりつつあるという。スポーツ界を挙げてノウハウを共有していきたい。
被害者の内訳では、小学生が4割を占めた。試合出場やチームへの影響を恐れ、子どもたちは声をあげづらい。勝つためにと指導者の行為を黙認する親もいる。
指導者任せでなく、いろいろな立場の大人が見守り、異変をすくい取ることが大切ではないか。
セクハラ被害も深刻である。バトントワリングのコーチの立場で男子選手にわいせつな行為をしたとして今週、京都府警が強制わいせつの疑いで民間クラブチームの元コーチを逮捕した。
スポーツでは指導者が選手の体に触れる機会も多い。未成年者と密室での個人指導を避けるなどのルール化が必要だろう。被害者の心のケアも手を尽くしてほしい。
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