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社説:大深度の地下工事 リスクの大きさを直視せよ

京都新聞 / 2024年5月25日 16時0分

 リニア中央新幹線の地下トンネル工事が行われている岐阜県瑞浪市の山間部で、深刻な水枯れが問題になっている。

 住民が飲み水や農業用水に使ってきた14カ所の井戸やため池が枯れたり水位の低下が確認された。

 JR東海は工事が影響を与えたことを認め、工事を中断した。6月には地質のボーリング調査を始めるという。

 かねてリニア沿線で水資源への影響が懸念されており、現実化した形だ。JR東海は被害防止を優先し、住民に広がる不安の払拭に努めねばならない。

 リニア中央新幹線はルートの約9割がトンネルで、各地で用地買収や地権者の同意が不要な「大深度地下」(地表から40メートル以下)を通る。

 2001年の特別措置法施行で大都市を中心に大深度地下の利用が広がりつつあるが、地下構造の完全把握は難しい。日本は軟弱な地盤も多く、工事が容易ではないことをあらためて突きつけたといえよう。

 見過ごせないのは、昨年12月と今年2月に掘削現場で湧水が発生し、観測用井戸の水位低下を確認したにもかかわらず、JR東海が工事を続けたことだ。岐阜県にも今月1日まで報告されていなかった。

 大深度地下を利用する事業者にとっては、地表に法的な利害関係者が存在しない。そのため、住民生活や環境への配慮より工事を優先したのではないか。

 東京都調布市で20年、地下トンネル工事の影響で起きた住宅地の道路陥没でも、事業者の東日本高速道路には、地面のひび割れや水道管が地中から浮くなどの情報が、事前に住民から寄せられていたという。

 事業者にとって煩雑な用地交渉が不要だからとはいえ、工事に関わる情報公開や住民との対話を軽視すべきではない。

 リニア建設工事では、静岡県が南アルプスを貫くトンネル工事の影響で大井川の水量が減少するなどとして同県内工区の着工を認めていない。岐阜県の水枯れは、他の沿線各所でも起こりうることを示しているといえよう。

 北陸新幹線の延伸計画でも、福井県の敦賀市から京都府の地下を貫いて大阪に至るルートの約8割で、大深度地下の利用が見込まれている。京都盆地の豊富な地下水に悪影響を及ぼす懸念は深まる一方だ。

 大量に発生する残土の処分も大深度地下利用の重大な課題になっている。

 リニア工事では、岐阜県御嵩町長が有害物質を含まない残土を受け入れる意向を示した。だが、候補地には希少鳥類の生息が確認されており、町内では反発がある。今回の水枯れへの対応を巡り、町はJR東海との協議を一時停止した。

 住民の生活や自然環境を脅かすリスクを置き去りにせず、理解を得られる見直しと対話こそ事業者に求められよう。

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