ファミコンカセットの高騰が止まらない? 文化としての「レトロゲーム」置き去りの危機
マグミクス / 2023年6月20日 21時10分
■高騰にはさまざまな要因が
ファミコンカセットをはじめとする、レトロゲームの高騰が止まりません。1990年代にはワゴンセールで新品が投げ売りされていたカセットたちが、今はショーケースのなかで信じられないような価格がつけられているのを見るたびに「ああ、あのとき買い占めておけばよかった」「持ってるのを捨てるんじゃなかった」と、思いをはせる方も多いのではないでしょうか。
特に高騰しているのが、1990年以降、すなわちスーパーファミコン登場後に発売されたファミコンカセットです。1994年に発売されたファミコン最後のライセンスソフト『高橋名人の冒険島IV』は、箱・説明書なしでも3万円前後、完品では10万円から30万円と、信じられない値段が付いています。
この時期に発売されたタイトルは高水準の開発ノウハウを持つクリエイターたちが手掛けたものが多く、ファミコンとしてはクオリティも非常に高くなっています。しかしこの時期は他の高性能なハードがすでに登場していたため生産本数が少なく、希少価値が生まれてしまっているのです。
なぜ、レトロゲームは高騰しているのでしょうか。まずひとつ目に挙げられるのが、新型コロナ禍における動画視聴です。いわゆる「巣ごもり」の際に古いゲームの動画配信を見ていた方が、懐かしさからレトロゲームを購入するようになったことが大きな要因でしょう。
この購入者の層には、外国の方も含まれます。コロナによる渡航規制が撤廃され、多くの観光客が来日していますが、そのなかにはゲーム好きの方も多く、お土産として日本のレトロゲームを買いあさる光景は珍しいものではなくなっています。現在プロ野球の横浜DeNAベイスターズに所属するサイ・ヤング賞投手であるトレバー・バウアー選手も、ゲームボーイアドバンスと『ポケットモンスター ファイアレッド』を購入する動画を配信するなど、レトロゲームの人気の高さが伺えます。
バウアー選手のように、好きな方に買っていただくのは非常に喜ばしいことです。しかしながら、現在の「買い漁り」には、良くない兆候が見え隠れしています。
レトロゲームが、投機の対象となってしまっているのです。
■カセット1本が1億円近くに
スーパーファミコン用ソフトで取引価格が高騰している作品のひとつ、『ファイアーエムブレム トラキア776』(任天堂)
2021年7月に海外版の『ゼルダの伝説』(英題「Legend of Zelda」)の未開封版がオークションにかけられた際の落札価格は87万ドル、当時のレートで約9600万円、2023年6月のレートでは約1億2000万円となります。同じ2021年の5月には『スーパーマリオブラザーズ』の美品が66万ドル(約7300万円)で落札されており、レトロゲームが単なる投機商品として扱われているのが明白となっています。
長くデフレ環境下に置かれていた日本の経済力は低下しており、観光客は日本の「安さ」を求めて観光に訪れるようになっています。日本人からすれば高く感じるレトロゲームも海外の方からすれば安く思えるようで、かなりの数をまとめ買いする光景も見られます。投機目的の買い漁りであればしばらく死蔵される可能性も高く、再び日本国内に入ってくる可能性は高くないでしょう。レアなタイトルに関しては、いずれ日本国内のショップから消えてしまうことも覚悟をしないといけないかも知れません。
レトロゲームの高騰を背景に、「偽物」も出回るようになっています。外見は素人では見分けがつかないほど精巧に作られたものも多く、偽物を見極める力を持つ経験豊かなショップ店員の存在がなければ、中古市場がいつ偽物であふれかえってもおかしくはありません。すでに通販ではある程度の偽物が出回っていると考えられますが、状況の確認は極めて困難です。
海外との経済力の差を考えれば、今後もレトロゲームの高騰は避けられないでしょう。しかし、希望がないわけではありません。元漫画家で現在は国会議員の赤松健氏が「プレイ可能な状態での、過去のゲームの合法的保存」に乗り出し、レトロゲームをリモートでプレイできるような環境および法律の整備を目指しています。
レトロゲームのなかには既に権利関係が定かではないタイトルもあるため困難が予想されますが、カセットなどの実物がなくなってもゲームそのものが遊べるようになれば、文化としてのゲームの継続性を保ち続けることができるのではないでしょうか。
(ゆうむら)
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