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ウルトラマン以前の特撮が怖すぎ! 『美女と液体人間』ほか大人向け怪奇映画たち

マグミクス / 2023年7月30日 7時10分

ウルトラマン以前の特撮が怖すぎ! 『美女と液体人間』ほか大人向け怪奇映画たち

■円谷英二が手がけた、猟奇的な「変身人間」シリーズ

 暑い夏の夜は、怖い映画を観ることでひんやりと過ごしたいと考える人もいるのではないでしょうか。そんな人にオススメしたいのが、昭和テイストたっぷりな東宝の特撮映画「変身人間」シリーズです。

 今はなき映画館「浅草東宝」では、クレイジーキャッツ主演のコメディ映画特集や加山雄三さん演じる「若大将」シリーズと並んで、オールナイト上映の人気プログラムとなっていました。

 怪獣映画の金字塔『ゴジラ』(1954年)を大ヒットさせた東宝の田中友幸プロデューサーのもと、東宝系のおなじみの俳優たちが多数出演。不気味な変身人間が登場する特撮シーンは、もちろん円谷英二特技監督が手がけています。

 1966年7月にTV放映が始まった円谷プロ制作『ウルトラマン』(TBS系)の前史にもあたる、「変身人間」シリーズを振り返ります。

■エロチズム漂う『美女と液体人間』

 ドアの下のすき間や窓から、ドロドロとしたゲル状の液体が流れ込み、見る見るうちに青白く発光する液体人間へと変貌していきます。また、液体人間に襲われた者も、液状化して新しい液体人間となるのでした。液体人間に狙われた美女の悲鳴が、夜の街に響き渡ります。

 本多猪四郎監督、木村武脚本による『美女と液体人間』(1958年)は、大人のエロチズムを感じさせる怪奇映画でした。

 東宝の怪獣映画『空の大怪獣 ラドン』(1956年)に出演した白川由美さんが、キャバレーで歌う美人歌手・千加子を演じています。千加子は液体人間にしつように追いかけられ、下着姿で下水道を逃げ惑うことになります。『地球防衛軍』(1957年)でも入浴シーンを演じた白川さんのセクシーさが、強く印象に残ります。

 白川さんが逃げ込む暗い下水道は、人間の欲望の掃きだまりのような場所です。そんな欲望の迷宮と化した下水道路を、白川さんは下着姿で懸命に逃げるのです。特撮映画というと子供向きと思われがちですが、『美女と液体人間』は子供を連れてきたお父さんが密かに楽しんだ作品だったように思います。

 もちろん、エロチックなだけの映画ではありません。大学助教授の政田(佐原健二)が調べていくうちに、大量の放射能を浴びた人間が最初の液体人間だったことが分かります。

 この設定は、1954年にビキニ環礁で行なわれた米軍の水爆実験によって日本の漁船が被曝した「第五福竜丸」事件がモチーフとなっています。乗組員たちは帰港後すぐに病院に収容、マグロは大量廃棄されるなど、大変な騒ぎとなりました。

 行き過ぎた科学に対する恐怖、人間の本能であるエロス、悪夢のような世界を描く特撮技術……。さまざまな要素がひとつに溶け合い、『美女と液体人間』が誕生したのでした。

■平和な社会に居場所を見つけられない『電送人間』

鶴田浩二主演の『電送人間』DVD(東宝)

 再び白川由美さんがヒロインを演じた「変身人間」シリーズの第2弾となったのは、『電送人間』(1960年)です。こちらは、のちにお色気SFアクション映画『エスパイ』(1974年)などを手がける福田純監督の作品で、人気スター・鶴田浩二さんが主演した珍しい特撮怪奇映画です。

 銃剣で男性が刺殺される事件が連続して起きますが、殺人鬼は神出鬼没で警察は逮捕することができません。この殺人鬼の正体は、元日本陸軍の兵士・須藤(中丸忠雄)でした。太平洋戦争末期、軍資金を横領しようとした上官に逆らったために、須藤は生き埋めにされたという過去があったのです。

 生き延びた須藤は、陸軍が密かに開発を進めていた「物質電送装置」によって電送人間となり、終戦後ものうのうと暮らす元上官たちへの復讐を重ねていきます。警察に追われる須藤が、軍服姿で高度経済成長を遂げた街を逃走するシーンは異様さを感じさせます。

 電送人間には、テレビ画面のような走査線が浮かび、とても不安定な形状です。戦争の記憶が失われつつある現代社会では、電送人間は復讐に生きることでしか自分の存在を証明できません。平和を享受できない、とても哀しい人間です。

■「推しの子」をプロデュースする『ガス人間第1号』

 シリーズ最高傑作と評されているのは、『ガス人間第1号』(1960年)です。本多猪四郎監督と木村武脚本による、ガス人間と美女との異形のラブロマンスものです。八千草薫さんの息を呑むほどの美しさと、東宝の特撮映画を支えてきた土屋嘉男さんの名演が目に焼き付きます。

 都内の銀行が次々と襲われる怪事件が起きます。密室状態の金庫から大金を盗み出す犯人の正体は、体を気体に変えることができるガス人間こと水野(土屋嘉男)でした。水野は盗んだお金で、落ちぶれた日本舞踊の家元・藤千代(八千草薫)の発表会を成功させようとしていたのです。

 水野は普段は図書館の司書を勤めている平凡な男です。藤千代は水野から渡されたお金はワケありなことを知りながら、それでも発表会の準備を進めます。社会的倫理よりも、自分の芸を世間に発表したいという表現者としてのエゴイズムが勝ってしまったのです。

 警察が厳重に監視するなか、藤千代の舞台が始まります。客席には水野ただひとりだけ。水野はうれしそうです。自分の「推しの子」のステージを、自分だけが独占できる喜びでいっぱいです。そして特撮映画史に残る、甘くせつないエンディングを迎えることになるのです。

 SFアニメ『銀河鉄道999』のメーテルのモデルにもなった八千草薫さんは、美しさと同時に恐ろしさも感じさせます。二面性のある女性となっています。

 変身人間シリーズに、『透明人間』(1954年)や『マタンゴ』(1963年)を含める場合もあります。どの作品も、異形の存在になってしまった人間の哀しみが描かれていることで共通しています。

 その後、円谷監督率いる円谷プロは、主人公が巨大なヒーローに変身する『ウルトラマン』の放映を1966年に始め、大ブームを巻き起こすことになります。明るい雰囲気の『ウルトラマン』ですが、人間が怪獣化してしまった第22話「故郷は地球」のジャミラなどの哀しいエピソードも忘れられません。変身ヒーローものの根底には、変身人間たちの孤独さや哀しみが流れているように感じられます。

(長野辰次)

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