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「結婚した」は憶測…『水星の魔女』インタビュー記事の修正と「お詫び」に、ファンが激怒した理由

マグミクス / 2023年8月3日 6時10分

「結婚した」は憶測…『水星の魔女』インタビュー記事の修正と「お詫び」に、ファンが激怒した理由

■『水星の魔女』スレッタとミオリネの結婚は憶測?

『機動戦士ガンダム 水星の魔女(以下水星の魔女)』のインタビュー記事を巡って炎上が起きています。

「月刊ガンダムエース2023年9月」号に掲載されたインタビュー記事で、紙の雑誌と電子版で一部記述が異なっていたことが発端。紙の雑誌版では主人公スレッタとミオリネの関係について「結婚」という言葉が使用されていましたが、電子版ではその記述が削除されていました。

 この記述の食い違いがSNSを中心に広がり、バンダイナムコフィルムワークスが公式サイトで謝罪を表明(※1)。食い違いの理由は、ガンダムエース編集部の「憶測」による文面があり、校正時に修正依頼をしたものの修正が反映されなかった、修正可能な電子版のみ本来の依頼通りに配信されているとの旨を報告しています。

 この対応にも多くのファンが反発しています。最終話でスレッタとミオリネがともに左手の薬指に指輪をしており、ふたりが結婚したと解釈している人も多数いました。そして、同性婚のある世界を描きながらも、それを隠そうとするかのような対応に、「クィアベイティング(性的指向の曖昧さをほのめかし、世間の注目を集める手法)」ではないかという批判が国内外から上がっている状態です。

●ジェンダー表象に特徴があった『水星の魔女』

『水星の魔女』は、戦争に格差や差別、企業による統治と搾取など多くの要素を内包しており、中でもジェンダー表象に特徴のある作品です。

 本作の第1話、ガンダムによる決闘制度があり、ミオリネは父親によって決闘の勝者を花婿とすることを強いられていることが示されます。その勝者はホルダーと呼ばれ、1話の時点のホルダーであるグエルは「お前はトロフィーなんだよ」と、「トロフィーワイフ」を連想させる言葉を用いて男尊女卑的な価値観をあらわにし、ミオリネが抑圧に苦しんでいることが描かれます。

 そこにスレッタが決闘に勝利し、ミオリネの花婿となることから物語が動き出します。「私、女ですけど」と戸惑うスレッタに対して「水星ってお堅いのね、こっちじゃ全然ありよ」と返答します。本作は、人が宇宙に進出した架空の未来の物語ですから、同性婚が普通になっていてもなんら驚きはありません。実際に、スレッタとミオリネの関係を不思議に思うキャラクターはいないことから、周囲の反応からも同性婚が特段驚くものではないのでしょう。

 11話ではミオリネが、スレッタのおかげで色々な抑圧から逃れることができたと内心を吐露し、ふたりが親密になった矢先、戦争の理不尽さに巻き込まれていき、その後もさまざまな困難が降りかかるものの、最終話ではふたりが左手の薬指に指輪をはめて仲睦まじくしているシーンで幕を閉じます。企業の利権構造や分断・格差は解消されず、世界は多くの問題を抱えたままではあるものの、スレッタ親子とミオリネが穏やかな時間を過ごせているのが、かすかな希望として提示されているのです。

 こうした描写から、スレッタとミオリネが結婚したと解釈する人が多く、自然にそう連想できる内容ではないかと考えられます。

 学園内での決闘というアイディアやクィア的描写から、本作を『少女革命ウテナ』と比較する人も多かったです。『ウテナ』は放送当時(1997年)としては、ジェンダー表象として先進的だったと今も高く評価される作品です。その志を受け継ぎ、同性婚がごく当然の一要素として位置づけられ、ガンダムの物語を紡ぐという新たな挑戦をした作品だと受け止める人もいました。

 その他、『ウテナ』では主人公が王子様に憧れて男装をしていて、規定の女子制服を着ていないことで教師に注意される描写がありますが、『水星の魔女』では指定の制服が男女共用のユニセックスなデザインとなっており、そういう軋轢もない世界となっています。この制服のデザインは、キャラクター原案のモグモさんのインタビューによると、小林監督の案も入っているようです(※2)。

■若い世代では同性婚支持が多数派

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』初解禁となったキービジュアル (C)創通・サンライズ・MBS

 炎上は2段階で広がりました。紙版と電子版で記述が異なることが発見された段階と、それに対して公式見解で編集部の「憶測」による誤植だと発表された段階です。

 憶測とは「いい加減な、根拠のない当て推量」という意味で否定的に使われることが多い単語です。憶測だから「結婚」という単語を削除するのは、ふたりが結婚したという解釈が憶測だと否定していると受け取られかねません。

 しかし、作品を観ればごく普通にふたりが結婚したように見えるわけです。実際にそのように解釈した人が多かったからこそ、今回の件は大きな炎上となっています。公式の謝罪文には「本編をご覧いただいた皆様一人一人の捉え方、解釈にお任せし、作品をお楽しみいただきたい」とも書かれていますが、多くの人の解釈が憶測にされてしまったと言えます。

 筆者としては、左手の薬指がしっかり描かれているわけですから、ふたりが結婚したという解釈に「根拠がない」とは思いません。インタビュイーが発言していない言葉を、記事担当者が「憶測」で書いたのかもわかりませんが、それは取材音源の文字起こしを読まねば何とも言えないところです。

 個人的には、本編の結末に触れる部分ですので、放送終了から一カ月未満のタイミングならネタバレ防止の観点から監修することはあり得るとは思います。

 筆者は同性婚訴訟の裁判の取材をしたことがありますが、原告の当事者の方がこう言っていました。「周囲の理解は進んでいるが、制度だけが壁になっている」と。

 実際に2023年の世論調査では同性婚賛成が多数派です。プロデューサーの岡本拓也氏は、本作は「次の世代に向けた」ガンダムを作るというところから企画が始まったと語っています(※3)。同性婚というアジェンダは、世論調査を見る限り、若い世代には当然のこととして受け入れられており、特に30代以下の女性では9割以上が賛成という調査もあるくらいで(※4)、女性主人公で同性婚を描くガンダムはマーケティング的にもハマっていたとも言えます。他にも色々な要素があるでしょうが、本作のジェンダー表象も新世代のファンを獲得できた要因のひとつではないでしょうか。

 小形尚弘エグゼクティブプロデューサーはニューヨークでの反響で「『ダイバーシティー(多様性)な作品だ』という声も聞きました」と本作が多様性の文脈で評価されていることを実感していたようですから、制作陣もここに作品のストロングポイントがあることは認識していたのだと思います(※5)。ならば、広報戦略として、ネタバレを気にしないならスレッタとミオリネの結婚を押し出すという考えも、2023年現在なら「全然あり」ではないでしょうか。

●アニメ作品の本質は広報か、作品か

 広報がどうあろうと、画面は不変であり、アニメ作品の本質は広報の言葉よりも映像の中にあります。アニメの画面は、基本的に全て作り手の意図したものであり、夕日に照らされ輝く左手の薬指も、偶然写り込んだものではありません。

 こういうとき、筆者は常に作品外の言葉よりも映像を信じます。アニメ制作者たちは、基本的に絵の力を信じている人たちのはずです。そういう人たちの作った絵を、私たちはしっかり受け止めることが最も大切なことだと筆者は考えます。

※1:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』公式サイト「月刊ガンダムエース2023年9月号掲載のインタビュー記事についてのお詫び」

※2: 「数十年後も残るようなガンダムにしたい」という監督の言葉を受けて生まれたデザインの数々──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』モグモ(キャラクターデザイン原案)インタビュー(アキバ総研)

※3: 「ガンダムは僕らに向けたものじゃない」10代のリアルな言葉に衝撃を受けて──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』岡本拓也プロデューサーインタビュー前編(アキバ総研)

※4:同性婚「賛成」63%、30歳未満女性の9割以上が「賛成」 JNN世論調査(TBS NEWS DIG)
※5:機動戦士ガンダム 水星の魔女:新規ファン開拓に手応え ガンダムらしく奥深さも(MANTANWEB)

※本文の一部を修正しました。(2023.8.4 10:35)

(杉本穂高)

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