「生まれるのが早すぎた?」任天堂が平成に発売した画期的ゲーム機が販売不振に陥ったワケ
マグミクス / 2024年3月17日 21時40分
■赤と黒だけの配色で構成された独特の3D画面
近年ではVRゴーグルが普及したことにより、立体的な3Dのゲーム映像が手軽に楽しめるようになりました。有名な機器でいえば、PS4やPS5用のバーチャルリアリティヘッドセット「PlayStation VR」を思い浮かべる人も多いはずです。
しかし、今から約30年も前に、VRゴーグルの先駆けともいえるゲーム機が誕生したことをご存知でしょうか。それは任天堂が発売した「バーチャルボーイ」というゲームハードです。
ゴーグル型のディスプレイを覗き込むという斬新なスタイルで3Dの立体画面を実現し、一部で注目を集めましたが、任天堂の新ハードとしては売れ行きはパッとしませんでした。
そこで今回は、平成に生まれたVR機「バーチャルボーイ」が不振に終わった理由を振り返ります。
1995年7月に任天堂から発売されたバーチャルボーイ(希望小売価格:1万5000円/税別)は、今のVRゴーグルに近いデザインになっており、ゴーグルを覗き込むと、224個の赤色LEDとバックの黒の2色で表現された3D空間を体感できます。本体はVRゴーグルのような形状をしていますが、同機は「卓上型家庭用ゲーム機」であり、ゴーグル部分をスタンドで支える構造になっていました。
また家庭用ゲーム機でありながらコンセント接続ではなく、単3乾電池6本で動作する仕様(別売りのアダプタを購入すると、ACアダプタも利用可能)でした。
それと特徴的だったのは、立体映像を見続けるプレイヤーへの負担も配慮されており、一定のタイミングで自動的にゲームを中断して、休憩を促すメッセージが表示される「オートマティック・ポーズ」という機能が備わっていました。
今の感覚で捉えると「赤色LEDと黒」だけで立体的な映像を作り出すという点が気になりますが、専用ソフト『マリオズテニス』や、T&Eソフトの3Dシューティング『レッドアラーム』などをプレイすると、確かに奥行きのある3D映像が体感できます。
とはいっても、やはり赤と黒だけで表現される映像には見にくさもあり、長時間プレイしていると視覚的に単調に感じてしまう点も否めません。
■失敗の理由は「ゲーム機」として売り出したから?
任天堂の対応ソフトの多くは、横井軍平氏が開発に携わった 画像は『ギャラクティック・ピンボール』(任天堂)
バーチャルボーイの開発の中心にいたのは、「ゲーム&ウォッチ」や「ゲームボーイ」などの生みの親として知られる横井軍平氏です。横井氏は、ゲーム機の高スペック競争という方向性に異を唱え、自身の持論である「枯れた技術の水平思考」を体現するために、バーチャルボーイを開発したといわれています。
そしてLEDを利用したバーチャルディスプレイ技術に着目して生まれたバーチャルボーイは、世界での出荷台数は77万台(日本では15万台)に留まりました。これは、ほかの任天堂のゲームハードに比べるとかなり少なく、セールス的には失敗だったと言わざるを得ません。
ちなみにバーチャルボーイには、対戦や多人数プレイ用の通信ポートが搭載されていましたが、残念ながら販売不振が原因で通信ケーブルは発売中止に。ゴーグル本体に備えられた通信ポートが使われることはありませんでした。
のちに任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏は、バーチャルボーイについて「ぼくのなかでの位置づけは、あの機械(バーチャルボーイ)は『おもしろいおもちゃ』だったんですよ」と発言しています。さらにバーチャルボーイが「おもちゃ」という扱いであれば、77万台は十分大成功の部類とも語っていました。
バーチャルボーイが発売される前年の1994年には「初代プレイステーション」がリリースされ、1996年には任天堂の新ゲーム機「NINTENDO64」が発売された時期になります。次世代ハード競争が激化していた状況も踏まえると、クセが強く、かなり尖ったバーチャルボーイが苦戦を強いられたのも、やむを得なかったのかもしれません。
商業的に見ればバーチャルボーイは失敗だったかもしれませんが、のちに任天堂は裸眼での手軽な立体視を実現した「ニンテンドー3DS」を誕生させ、大ヒットしました。そのことを考えると、いち早くバーチャルボーイで3Dに挑戦したことは、決して無駄だったとは言えないでしょう。
(LUIS FIELD)
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