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トトロは死神、サツキとメイはもう…なぜ都市伝説化した? 本当に「怖い」人気アニメ

マグミクス / 2024年8月13日 7時25分

トトロは死神、サツキとメイはもう…なぜ都市伝説化した? 本当に「怖い」人気アニメ

■スタジオジブリが否定した「死亡説」

 子供の頃に夢中になった人気アニメでも、大人になって見返すと巧妙な演出や設定に、驚くことはありませんか? 以前は気付かなかった奥深いテーマ性に、ぞくっとしてしまうこともあります。

 なかでも有名なのが、宮崎駿監督の代表作となっている『となりのトトロ』(1988年)です。森に住む不思議な生き物「トトロ」と、田舎に引っ越してきたサツキとメイの姉妹が交流する物語は、観る者を童心に返らせる魅力があふれています。

 たびたびTV放映された『となりのトトロ』が大人気となる一方、「トトロは死神」「メイとサツキは死んでいる」といううわさが広まり、都市伝説となっていきました。2007年5月にはスタジオジブリが公式サイトでうわさを否定するほどの騒ぎになっています。

■池に浮かぶ赤いサンダル

 なぜ、このような都市伝説が生まれたのでしょうか? 宮崎監督のオリジナルストーリーである『となりのトトロ』は、子供が持つ明るい生命力と想像力の物語です。父親が「おばけ屋敷」と呼ぶボロボロの洋館に引っ越してきたサツキとメイは、好奇心いっぱいな少女です。そんな姉妹が、トトロやネコバスといった子供の目にしか見えないクリーチャーたちと遭遇する様子が、とてもファンタジックに描かれています。

 サツキとメイがトトロにしがみついて夜空を飛翔するシーンは、宮崎アニメらしい躍動感に満ちています。純真な子供たちの想像力が、トトロの不思議な力と一体化して、どこまでも飛んでいけそうです。明るいイマジネーションたっぷりなシーンの後、入院中の母親の体調がすぐれないことを姉妹は知らされます。お母さんが死んじゃったら、どうしよう。そんな不安に姉妹はおびえます。

 こうした明と暗の対比が、宮崎監督は見事です。サツキとメイが明るく輝くほど、母親に死の影が伸びている恐怖を感じさせます。また、迷子になったメイを懸命に探す姉のサツキは、池にサンダルが落ちていたと聞いて、「もしかしてメイが……」と戦慄します。池に赤いサンダルが浮かぶカットが一瞬映るだけですが、日常生活に忍び寄る死の影に、誰もがゾッとしたはずです。

 宮崎監督が暮らしている所沢市が、物語の舞台となっています。時代設定は昭和30年代前半ですが、それから少し後の1963年(昭和38年)5月に、所沢市に隣接する狭山市では悲しい事件が起きています。16歳の少女が誘拐され、遺体となって発見された「狭山事件」です。事件が起きた1963年は、宮崎監督が東映動画(現:東映アニメーション)に入社した年でもありました。

 関係者が次々と亡くなった「狭山事件」が、『となりのトトロ』のモチーフになっているといううわさも、都市伝説の一部としてささやかれています。宮崎監督自身は事件との関連性については何も語っていませんが、サツキとメイの放つ明るさが、悲しい事件の記憶と結びつき、都市伝説化していったようです。

■実在の事件をモチーフにした名作アニメ

実際に起きた事件を想起させる『ルックバック』 (C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

 実在の事件がモチーフとなっていることで有名なのは、宮沢賢治のファンタジー小説『銀河鉄道の夜』です。杉井ギサブロー監督による劇場アニメ『銀河鉄道の夜』(1985年)は、細野晴臣さんが幻想的な音楽を手掛け、名作アニメとして高い評価を受けています。

 宮沢賢治は37歳の若さで亡くなり、その後、1934年に『銀河鉄道の夜』は出版されました。1912年に起きた「タイタニック号沈没事故」や妹・トシの死に宮沢賢治は触発され、『銀河鉄道の夜』を書いたといわれています。ジョバンニとカムパネルラが銀河鉄道に乗って、宇宙を旅するという夢のある物語ですが、生と死が隣り合わせになったせつなさも感じさせます。

 宮沢賢治が書き残した『銀河鉄道の夜』は、人気アニメ『銀河鉄道999』など多くの作品に影響を与えています。作家としてはほぼ無名のまま亡くなった宮沢賢治ですが、『銀河鉄道の夜』が不朽の名作になったことで、その名はいつまでも語り継がれるでしょう。

 開拓期の北海道を舞台にした『ゴールデンカムイ』も、実在の事件がモチーフのひとつとなっています。日露戦争の帰還兵である杉元佐一は北海道に渡り、アイヌが秘蔵する金塊を探すことになります。その杉元の前に立ちはだかるのが、凶暴なヒグマです。

 原作者の野田サトル氏は、『ゴールデンカムイ』を執筆するにあたり、1915年(大正4年)に起きた「三毛別羆事件」について調べています。これは巨大なエゾヒグマが開拓集落にいた妊婦や子供らを襲い、7人の犠牲者を出した日本最悪の獣害事件です。人間の女性の肉の味を覚えたヒグマが、執拗(しつよう)に女性を狙ったという恐ろしさが知られています。

■亡くなった人たちを鎮魂する物語

 吾峠呼世晴氏の人気コミックを原作にしたアニメシリーズ『鬼滅の刃』は、「無限城編」が三部作として劇場公開されることが発表されました。炭治郎たちが戦う鬼たちの正体は、さまざまな考察がされています。

 もともと鬼は、目に見えないモノ=隠(おん)として表現されてきた歴史があります。自然災害や疫病などは、鬼の仕業だと考えられてきたわけです。

 炭治郎たちがいた大正時代の日本を襲ったのが、1918年(大正7年)から1921年(大正10年)にかけて大流行した「スペイン風邪」です。日本だけで39万人もの人が亡くなっています。そんな恐ろしい疫病が、鬼の正体ではないかともいわれています。新型コロナウィルスが猛威をふるうなかで、『鬼滅の刃』が大ヒットしたことは因縁めいたものを感じさせます。

 物語には、私たちが娯楽として楽しむだけでなく、亡くなった人たちを弔い、鎮魂するという役割があるとされています。新海誠監督は東日本大震災に触発され、劇場アニメ『君の名は。』(2016年)をつくっています。また、藤本タツキ氏のコミックを原作にした劇場アニメ『ルックバック』が好評公開中ですが、実在の事件を連想させることでも話題となっています。

 亡くなった人を現実世界に生き返らせることはできません。ならば、せめて物語というフィクションの世界に、彼ら彼女らが生きて、輝いていた姿を残しておいてあげたい。そして、そんな物語を分かち合うことで、生きている人の心も癒し、元気づけたい。観る人の心に残る人気アニメには、製作者たちのそんな祈りが込められているのかもしれません。

(長野辰次)

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