実写『20世紀少年』はなぜ「激似」だった? 若手俳優の出世にもなったキャスティングの秀逸さ
マグミクス / 2024年8月30日 21時5分
■「もはや本人」「原作マンガから飛び出てきた」との声も
2024年は、1月に劇場公開された『カラオケ行こ!』、4月よりNetflixで配信中の『シティーハンター』、7月より公開中の『キングダム 大将軍の帰還』、8月より公開中の『ブルーピリオド』『サユリ』など、絶賛の声が多いマンガの実写映画化作品が続々と世に送り出されました。
そのマンガの実写化映画の歴史において重要な作品のひとつが、16年前の2008年8月30日から2009年8月29日にかけて3部作で公開された『20世紀少年』です。3部作の総制作費が60億円というビッグプロジェクトであり、何より公開当時から「キャラクターの再現度」に多くの驚きの声があがっていました。
●『第一章』から登場する「もはや本人」な俳優たち
実写映画版『20世紀少年』における、原作マンガのキャラクターに見た目からしてそっくりな、知名度も高い俳優陣のキャスティングは、もはや「完璧」「正解」といえるほどです。
たとえば、主人公の「ケンヂ」役の唐沢寿明さんは、ご自身は「顔が原作とは似ていない」と感じていたそうです。しかし、劇中でミュージシャンの夢を諦めコンビニで働くくたびれた姿を見せながらも、巨大な陰謀を知り大胆な行動を起こす精神的な強さを持つケンヂは、生真面目な印象も強い唐沢さんがベストマッチだと思えました。
他にも『第一章』から登場する、その出立ちからしてハードボイルドな「オッチョ」役の豊川悦司さん、ぽっちゃりとした体型で親しみやすい「マルオ」役の石塚英彦さんは、「もはや本人」だと絶賛されるほどの再現度です。こちらもまた、TVや映画の出演で培われたパブリックイメージも手伝ってのハマり役といえるでしょう。
●『第二章』では「マンガからそのまま飛び出てきた」印象も
さらに、『第二章』では(正確には『第一章』のラストから登場している)「カンナ」役の平愛梨さんは、愛らしさとカッコ良さを併せ持った役柄に、髪型も含めてピッタリだと話題になりました。平愛梨さんはオーディションで3000人のなかから抜てきされており、今回で合格しなければ芸能界引退を考えていたそうで、彼女はまさに『20世紀少年』でキャリアが劇的に変わった俳優のひとりなのです。
その『第二章』でのさらなる注目キャストは「コイズミ」役の木南晴夏さんで、そのコミカルな表情や存在感は「マンガからそのまま飛び出てきたみたい」などとやはり絶賛されました。木南さんはその後にドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズの「ムラサキ」役でも活躍し、コメディ作品との相性の良さも知らしめています。
●そもそもそっくりなキャスティングができた理由は?
実写映画版『20世紀少年』でベストといえるキャスティングができた理由の筆頭は、原作者の浦沢直樹さんが生み出したキャラクターそれぞれの、「描き分け」がされていたことにあると思います。
マンガにおける表現、特に人間の顔は現実よりも簡略化されたりデフォルメされるため、作家によってはキャラの描きわけがあまりされていないことも(それでもキャラそれぞれを魅力的に描ける場合もありますが)多いです。しかし、浦沢さんは手塚治虫さんに強い影響を受けたと思われる、現実の人間の顔の特徴を誇張したようなキャラクターのデザインがうまいのです。
そのデザインはある種の「似顔絵」的ともいえるので、だからこそ現実の世界で「似ている」俳優を選びやすかった、「このキャラはこの人だ!」と見た目からして納得がしやすかったのではないでしょうか。ともかく「似ている」ことを重視する実写化のアプローチそのものは正当ですし、結果としてほとんどの人が納得するキャスティングができていることは、素直にマンガの実写映画化における偉大な功績のひとつだと思えるのです。
また、原作のプロット共同制作者で、映画版の企画と脚本も担当した長崎尚志さんの、公開当時の「映画.com」のインタビューでは、浦沢さんとも細かく話し合い、各キャラのキャストの議論の末に残った俳優がちゃんとキャスティングされたことも語っていました。
●作品自体は厳しい批判の声も多い結果に
ただし、実写映画版『20世紀少年』本編の作品そのもののクオリティに対しては、厳しい批判の声が多くありました。堤幸彦監督は本作で「原作原理主義を貫く」「完コピ」を目指していたことも語っているのですが、出来上がった本編から「あらすじだけを見せていく」ような印象を抱く人も多く、キャラの心情や展開の整合性も乏しく、「原作からあったツッコミどころがさらに目立ってしまった」というような意見まで散見されました。
作品を別のメディアに置き換える時に「原作に忠実」というのはひとつの評価軸になり得ますが、そのまま「トレース」をするだけでは良い内容にはならないことも証明していたともいえるでしょう。マンガを実写映像にするという、そもそも表現方法が異なる媒体へと変換するための工夫も、やはり重要だと思えるのです。
それでも、ベテラン俳優陣は「このキャラにはこの人しか考えられない」ほどのキャスティングがされ、若手俳優たちの出世にもつながった功績もまた大きいものです。日本でここまでのビッグプロジェクトを成し遂げたことと、興行的にも一定の成功をした事実も評価されるべきでしょう。
●堤幸彦監督によるマンガの実写最新作が9月に公開
なお、その実写映画版『20世紀少年』の堤幸彦監督は、9月6日公開のマンガの実写映画化作品『夏目アラタの結婚』でもメガホンを取っており、こちらも文句なしに素晴らしいキャスティングがされていました。
筆者はすでに映画を試写会で鑑賞したのですが、柳楽優弥さんは「死刑囚との獄中結婚をする」とんでもない選択をする危なっかしさと、まともな正義感を持ち合わせる主人公「夏目アラタ」にベストマッチと思えます。また、黒島結菜さんも不可解な言動を繰り返すさまに恐怖を覚える一方で、どこかキュートにも思えてしまう死刑囚「品川真珠」にハマりまくりでした。
作品としても、スリリングかつ論理的な会話劇で魅せていくエンタメ性が抜群で、原作マンガのファンにもそうでない人にもおすすめできるクオリティです。実写映画版『20世紀少年』でキャラクターの再現度に驚いた方も、はたまたその本編に良くない印象を抱いた方も、ぜひ『夏目アラタの結婚』を観てみてほしいです。
(ヒナタカ)
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