初代ガンダムの白色は「本当の白」じゃない? 主役メカとして「異例」だったデザイン
マグミクス / 2024年12月29日 6時40分
■ガンダムの白色は「真っ白」じゃなかった?
いくつもシリーズを重ね、最近ではフル3Dで海外のクリエイターの手になる作品まで登場するようになった「ガンダム」シリーズは、もはや国民的アニメと呼んでいいのかもしれません。
そんなさまざまなガンダムの元祖とも言える『機動戦士ガンダム』が、TV画面に登場したのは1979年、今から45年も前なのですから、いまさらながら驚くばかりです。
みなさんもご存じのとおりガンダムというモビルスーツ(ロボット兵器)、特に主人公が使用する機体のイメージは基本的に「白」です。
ただ、これも多くのガンダム好きの方にはお分かりですが、白といってもただの白ではなく「ブルーホワイト」(以下、BWと記載)と呼ばれる、ほんの少し青みがかった、とても淡い空色ともいえます。
では、なんでガンダムはただの白ではないのでしょうか。
ガンダムをデザインしたのは大河原邦男さん。『科学忍者隊ガッチャマン』や「タイムボカンシリーズ」などでも活躍されている、日本で初めて「メカニックデザイナー」という職種を確立した方です。
しかし、 こうしたデザインも、必ずしもデザイナーひとりだけででき上がるとは限りません。
『ガンダム』の場合は、人物をデザインした安彦良和さんがさまざまなアイデアスケッチを出しており、ガンダムそのもののデザインにも寄与しています。
安彦さんをはじめとする中心スタッフは、いままでにない新しいロボットアニメを作ろうと考えていたので、色も当時主流だった、いわゆる「スーパーロボット」とは違うものをと考えていました。
ところが、提出されるテストカラーは既存のロボットヒーローのイメージが強いものだったので、安彦さん自らが最終デザインをトレスしたセルに、セル絵の具で塗って提出したのが、全身ほとんどが白いものだったのです。
実は、この安彦さんの作業を私自身見ており、ご本人から「これ、どう?」と塗り上がりを見せられて「白は弱く見えませんか?」とお答えした記憶もあります。しかし安彦さんは「それでいいんだよ」とニッコリ。なぜなら、ガンダムはそれまでのスーパーロボットカテゴリではなかったからでした。
こうしてガンダムの基本カラーは「白」になったのですが、ここでひとつ、映像及び商品的な問題が発生します。
TV画面というのは、絵の具ではなく光です。光による「白」とは、つまり光そのもの。太陽が中天にある時、赤く見えず白に見えるのと一緒です。ですから、画面の中の白は時として光を使ったエフェクトなどに重なって見えにくくなることがあり、特に広い面積に使うことはできるだけ避けていました。
また、当時は当たり前だったマンガキャラが印刷された子供用日用品、お茶碗やハンカチのようなものですが、これらは下地が白なので、線だけの印刷になってしまい、メーカー側は難色を示すでしょう。
そこで、費用面やさまざまな手間がかかることから滅多に許可されない「新色」を、セル絵の具を作っている「太陽色彩」という会社に特注でガンダムのために作ることになったのです。
白にほんの少しの青を混ぜて作った色。それがあのガンダムのBWなのです。
この色を考えたのは、当時『ガンダム』のメイン色指定を担当していた長谷川洋さん。のちに「スタジオディーン」を設立した人です。
このBWそのものを安彦さんが選んだという情報もあるようですが、そもそも最初に彼が色を塗ったときには、まだBWは存在しないのですから、それは正確ではないわけです。
■「シャアザクがピンク色なのは絵の具が余っていたから」←ウソ?
「MG 機動戦士ガンダム MS-06S シャア専用ザクVer.2.0 1/100 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)
そういえば未だに「シャアザクのピンクは絵の具が余っていたから」「シャアザクのために作った色」などの誤情報も根強いようですが、まさにどちらも「真っ赤な嘘」。
シャアザクのR50という番号のピンクは、私の知る限りでも『ガンダム』の4年前に同じスタジオで作られていた『勇者ライディーン』のカラーチャートにすでに入っていて、サンライズ(当時)では脈々と使われてきた色です。
それに必要に応じて太陽色彩さんに注文して届けてもらう絵の具を、シリーズ通しで使わねばならぬような余り方などさせることはありません。
また、当時はまだ家庭に残っていた白黒TVや新聞のラテ欄などのモノクロ表示では赤は黒く映ります。一方、青は白くなります。味方は白っぽくて、敵は黒っぽい。当時はまだまだ子供が主要ターゲットだった時代。こうした配慮も「色」を決める際の大切な要素になるのです。
ガンダムのBWも、シャアザクのR50も、色のプロがさまざまな情況を考慮して決めたものです。公共の電波に乗せて放送される番組制作の裏は、けっこう面倒くさいのです。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。
(風間洋(河原よしえ))
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