キングギドラは「虹色」だった? 60年前、ゴジラの最強ライバルが今の形になるまで
マグミクス / 2024年12月22日 8時45分
■宇宙から来た怪獣なのに地味?
60年前の1965年(公開初日は64年12月20日)、お正月映画として「ゴジラ」シリーズ『三大怪獣 地球最大の決戦』が上映されました。この作品でデビューしたのが、ゴジラの永遠のライバルとなる宇宙超怪獣「キングギドラ」です。
映画は1964年、シリーズ10周年の第5作目で、ゴジラが初めて人類の味方、つまり善玉に変わる転機となる作品でした。「東宝」が誇る大怪獣ゴジラほか「モスラ」「ラドン」のチームを相手に、たった1頭で挑む凶悪怪獣を用意するため、他怪獣との差別化、すご味をどうやって見せるかという設定や演出は相当苦労したようです。
本作でのゴジラは身長50m、体重2万tで、キングギドラはそれを大きく上回る身長100m、大きな翼を広げた長さ150m、体重3万tです。ただ、それ以上にインパクトが強いのは、「全身が金色」というゴージャスなビジュアルでしょう。
しかし、キングギドラの代名詞とも言える金色フルボディは、最初は違う色であったことをご存じでしょうか?
デザインした特殊美術担当の渡辺明さんの設定によると、当初の体色は「緑がかった虹色」で「翼は赤・黄・青のトリコロールカラー」でした。「身体は青だった」と言う説も多いですが、とにかく今よりは地味な色だったようです。ではなぜ、全身を金色にチェンジしたのでしょう? きっかけは、あるスタッフのひと言でした。
そのスタッフとは、円谷組のスクリプター(記録係)の鈴木桂子(旧姓:久松)さんとのことです。ある雑誌のインタビュー記事をまとめると……
色塗りの作業が終わったばかりの、キングギドラの造形が美術作業場に干されてありました。それがアンギラスのようなグリーン系に見え、鈴木さんはこれが地球に来て暴れてもインパクトがない、地味すぎる、と感じます。そこで彼女は、そばにいた特技監督の円谷英二さんに「金星から来る怪獣なので、てっきり金色かと思ってました」と話したのです。すると監督は「!?」という顔をしてしばらく黙り、美術作業場へ向かい、鈴木さんもついて行きました。
そして、円谷監督は、造形チーフスタッフの利光貞三さんに「すまんがな、利光くん、これ金色に変えてくれるか」、とお願いします。こうしてキングギドラは、現在のまぶしく光る金色に姿を変えたのです。鈴木さんは美術スタッフに申し訳なくて、永くこのエピソードを誰にも話せなかったとのことでした。
重要なひと言を授けた鈴木さんは、円谷監督にもうひとつ重大なアイデアを出していました。
監督は、キングギドラの出現シーンに悩んでいたそうです。スクリーン初登場ですから、衝撃的な映像にしたかったのでしょう。
そこで鈴木さんは、監督に「『イワンのばか』、ご覧になりました?」と聞きました。こちらは古いロシア映画で、鈴木さんは「イワン」少年が森のなかで、火花を散らしながら飛び出してくる金色の鳥と遭遇するシーンを説明します。
監督は頭に映像が浮かんだのか、ささっと絵コンテを描いて合成作画の担当者のところへ行き、やりとりを始めました。でき上がったのは、「青空から飛来する真っ赤な隕石、その隕石から抜けだした合成アニメ映像の赤い大鳥が、徐々にキングギドラの姿に変わる」という、未知の生物感あふれるインパクト映像です。
他にも、『三大怪獣 地球最大の決戦』に関するキングギドラのトリビアは、
「エレクトーンで表現した3つの首の鳴き声はそれぞれ違う」
「着ぐるみの重さは80kgあり、スーツアクター以外に、3本の首、2本の尻尾、2枚の翼はパーツごとバラバラに動かすためそれぞれにピアノ線を付けて、約25人のスタッフが動かしていた」
「ゴジラなどの怪獣の着ぐるみは、通常作品ごとに新調するが、キングギドラは最初のものを9年間4作品使い回した」
などなど、まだまだありますが、今回はここまでにしておきましょう。ちなみに、キングギドラ初登場から60年、10作品以上に出演しているゴジラ最大のライバルですが、勝ったことは1度もありません。
※参考資料
・『ゴジラ&東宝特撮 OFFICIAL BOOK MOOK vol.16三大怪獣 地球最大の決戦』(講談社)
・『別冊映画秘宝 モスラ映画大全』(洋泉社)
(石原久稔)
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