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『AKIRA』をジャパニメーションの金字塔に持ち上げた、アメリカ非公式のネットワークとは

マグミクス / 2020年5月6日 18時20分

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■映画『AKIRA』が与えた“ジャパニメーション”の衝撃

 2019年7月、米ロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2019」で大友克洋監督の新作劇場アニメ『ORBITAL ERA』とともに『AKIRA』の新作アニメプロジェクトの制作が発表され、話題を呼びました。ワーナー・ブラザースがたびたび実写映画化を発表(現在は企画保留中)するなど、海外、特にアメリカでの劇場版『AKIRA』の人気はいまでも陰りを見せません。

 しかし、同作が1989年にアメリカで初公開された際の状況は、決して恵まれたものではなかったことをご存知でしょうか?

 アメリカの人びとが初めて目にした『AKIRA』は、日本同様にマンガ版でした。劇場公開1年前の1988年当時、アメコミの世界には新しい時代の波が訪れていました。『ウォッチメン』や『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の登場により、スーパーヒーローが活躍する勧善懲悪の物語だけでなく、より複雑な人間関係や緻密な描写がなされた、大人の鑑賞に耐えうる長編作品“グラフィックノベル”が注目され始めていたのです。

『AKIRA』はその一環として、『スパイダーマン』などで有名なマーベル・コミックスから刊行されます。その反響については「ユリイカ臨時増刊号 総特集・大友克洋」で手塚治虫氏が次のように語っています。

「ルーカスのIL&Mへ行ったとき、スタッフの1人がいきなり「アキラ」をぼくに見せて、「こういうのをアニメにしたいなあ」と言ったのを覚えている」

 しかし、クリエイターや一部の好事家たちから高い評価を受けたものの、アメリカでは日本以上に「マンガやアニメは子供向けのもの」と考える風潮が根強く、『AKIRA』はまだ知る人ぞ知る作品の位置に留まっていました。

 そして、大友克洋自身が監督を務めた長編劇場アニメーション『AKIRA』が、日本公開からおよそ1年半後の1989年12月にアメリカで公開されました。

 リアルな頭身で描かれるキャラクター、退廃した未来都市を緻密に描き込んだ美術、SF的な設定と壮大なスケールで描かれる物語、バイオレンスやグロテスクを内包したアクションーーディズニーに代表されるマンガ色が強いアメリカの児童向けのアニメとはまったく異なる“それ”は、強い衝撃を与えました。こうした『AKIRA』の衝撃は、後に “ジャパニメーション”なる造語を生み、海外における日本のアニメーション像に強い影響を残していきます。

■『AKIRA』のテーマを体現した非公式のネットワーク

マンガ『AKIRA』単行本第1巻(講談社)。アメリカでは映画公開前年に、マーベルから単行本が発売されていた

 しかし、興行的な成績は、その革新的な内容にふさわしいものではありませんでした。日本のアニメが海外でまだ浸透していない時代だったこともあり、『AKIRA』の公開規模は大都市のごく一部の劇場に限定され、Box Office Mojoによれば興行収入およそ44万ドル(当時のレートでおよそ5500万円)、最高位19位という結果に終わります(日本でも、公開当時の配給収入はおよそ7億5000万円と、10億円と報じられた制作費を補えるものではありませんでした)。

 ここで終われば『AKIRA』は、一部のマニア好みのカルト映画に留まっていたかもしれません。しかし薬物を摂取した鉄雄が超能力で暴走したように、『AKIRA』により生まれた衝動をおさめることのできない者たちが、ある行動に移ります。

 彼らは、日本ですでに発売していた公式なビデオや海賊版を用い、上映会を行ったのです。斬新なカルチャーに飢えていた若者たちを中心とした動きは各地に広がっていきました。噂を聞いたファンの間で、ダビングされたビデオの貸し借りも盛んに行われ、インターネットも普及していない時代に、ひとつのネットワークを作り上げていきました。

 こうした非公式ながらも草の根的なネットワークの勢いに脅威を感じた、公式の配給会社であるストリームライン・ピクチャーズは、公式なビデオの発売にあたって、実際に使用したセル画やアニメの素材を特典にしたそうです。

 その甲斐あってか、アメリカでの公式なビデオソフトも合計10万本を超えるヒットとなり、『AKIRA』は名実ともにジャパニメーションの金字塔とりました。いわばアメリカでの『AKIRA』人気は、現地のファンが自分たちで勝ち得た評価でもあるのです。

 こうしたアメリカでの最初の劇場公開からビデオ発売までのファンの動きは、アキラの覚醒を目の当たりにした金田たちがネオ東京に向けて走り出した姿に重なります。劇場版『AKIRA』のテーマは、”破壊の後の再生への願い”だそうですが、彼らはまさにそうしたテーマを体現しているように思えてなりません。

(倉田雅弘)

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