漫画アプリ王手「LINEマンガ」のキーマン語る、「タテ読み漫画」を重視する最大の理由とは
マグミクス / 2020年10月21日 9時20分
■海外で圧倒的な読者数を抱えるタテ読みマンガ
世界に注目されるマンガ王国・日本に変化が訪れています。通常のマンガは、右から左へとページをめくって横に読み進める形ですが、スマートフォンで読むのに最適な“タテ読みマンガ”が新たな支持を集めています。画面を上から下にスクロールすることで、話が展開していく“タテ読みマンガ”は、先行して普及している韓国やその他の国で「ウェブトゥーン」と呼ばれ、世界各国で急速に人気が高まっています。
そんななか、『偽装不倫』『神之塔』『ノブレス』など、ドラマ化、アニメ化されるオリジナル作品を次々と配信している「LINEマンガ」は、国内マンガアプリで最大となる3000万ダウンロードを突破。韓国最大のウェブトゥーン配信企業との提携を強め、タテ読みのインディーズ作品を大募集する「タテ読みちょうだいプロジェクト」も実施していました。
とはいえ、「マンガ王国」といわれる日本では従来形式の横にめくって読むマンガも、現状ではまだまだ主流です。なぜタテ読みマンガを重視するのか、そして今後日本のマンガにどんな変化が訪れるのか、LINEマンガのコンテンツ戦略を統括する、ユンCCOに聞きました。
* * *
ーーLINEマンガは今回、「タテ読みちょうだいプロジェクト」で広くインディーズ作品を募集していましたが、いまタテ読みマンガを重視する理由は何でしょうか?
ユンさん(以下、敬称略) いま、LINEマンガと業務提携しているNAVER WEBTOONはオリジナルマンガを世界8か国語で配信しており、グローバルMAU(月間アクティブユーザー数)で各国およそ6700万人以上のユーザーがいます。配信されるコンテンツのほとんどはタテ読みマンガです。
LINEマンガでタテ読み作品を重視して作っていく理由は、この世界中のユーザーにいち早く日本発のマンガ作品を読んでもらうためなのです。従来形式の横読みのマンガを各国向けに配信しようとすると、編集や演出、翻訳などのローカライズに多くの時間がかかり、最短でも半年、長くて1年もかかってしまいます。
しかし、タテ読みマンガの場合は、日本で作品が更新されたその翌週あるいは翌々週には、世界中のユーザーが最新話を読むことができます。はじめからローカライズを考慮してマンガを制作しているため、“世界同時連載”ということも可能になっています。
LINEマンガは2020年の8月に、世界最高レベルの電子コミックのノウハウを持つWebtoon Entertainment Inc.の傘下に入りました。これにより、オリジナル作品の制作を今まで以上に強化するだけでなく、世界各国で展開するWebtoonサービスと連携することによって、日本のマンガ家のグローバル進出をLINEマンガがリードし、機会を拡大していきたいと考えています。
■マンガの描き手に「こういう世界もあるよ」と伝えたい
『女神降臨』の物語のカギとなる「化粧」。さまざまな化粧品や化粧テクニックが縦向きのレイアウトで描かれ、リズムを感じさせる
ーータテ読みマンガは、どのように制作されているのでしょうか?
ユン 例えば、セリフのふきだしは、日本語は縦書きですが、英語やハングルなどでは横書きなので、翻訳されたセリフをふきだしに入れると、ふきだしの形が変わって絵の一部に空白ができてしまいます。
そこで、あらかじめ「絵」と「セリフ」と「ふきだし」を別々に作成し、重ねてレイアウトしています。海外向けにローカライズする作業コストを少なくできるのです。
また、作品によっては、まず従来どおりの横読みで描かれたマンガ原稿を、編集スタッフと作家の共同作業でタテ読みにレイアウトする……といった工程を行うケースもあります。
ーー今後、日本でもタテ読みマンガが主流になるとお考えでしょうか?
ユン 韓国では現在、すでにマンガの9割がタテ読みマンガといわれていますが、このような状態に移行するのに15年ほどかかりました。日本も大きな変化の時期に差しかかってはいますが、日本は独特の文化をもったマンガ王国であることも理解しています。あくまで推測ですが、あと5年ほどで全体の5割くらいがタテ読みマンガになるのではないでしょうか。
私自身はこれまで、日本と韓国の両方で長年マンガ作品の執筆や企画の立ち上げをたくさん手掛けてきました。日本のマンガが大好きで、尊敬する作家さんもたくさんいます。日本のマンガの素晴らしさを実感しているからこそ、当初はタテ読みマンガに抵抗があったのです。ただ、実際に作ってみると、「面白いマンガを描ける人は、タテだろうと横だろうと面白い作品が作れる」と確信しました。
こう思えたのは東村アキコ先生のおかげです。東村先生と一緒に企画した『偽装不倫』では、東村先生もタテ読みに前向きに取り組んでくれました。世界中のファンに作品のメッセージ性や面白さが伝わっていると思います。
ーー現在、インディーズ作品の募集に力を入れているのはなぜでしょうか?
ユン 私たちが企画するタテ読みマンガのオリジナル作品は、作品を世界に届ける前提で、作家と編集者が共同作業する点が大きな特徴です。『女神降臨』『喧嘩独学』などをはじめ、クオリティが高い作品が次々とできる理由のひとつは、会社がしっかりとお金を投資して作品の間口を広げていることです。
また、韓国でオリジナル作品を発表している作家さんたちは、人気に見合った収入を手にしているんです。私としては、「安心して自分の好きなマンガ執筆ができる、こういう世界もあるよ」というのを日本の作家さんにお伝えしたいですし、一緒に達成していきたいと思っています。韓国で成功した作家の多くが、日本のマンガ作品に対する憧れを語っています。マンガ王国・日本でタテ読みマンガに熱を入れる人が増えれば、いっそうクオリティの高い作品がどんどん世に出てくると思います。
ーー最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。
ユン LINEマンガのオリジナル作品は、商業的に成功するかしないかということよりも、アプリのコンテンツとして「面白いかどうか」で勝負しています。すでに面白い作家さんが続々出てきていますし、「タテ読みちょうだいプロジェクト」もその一助になればいいなと思います。
これから登場するオリジナル作品は、雑誌や単行本を究極の形とするマンガとはひと味違った作品になるので、その点にも注目していただけたら嬉しいです。
* * *
LINEマンガでは、縦スクロールに最適化されたマンガ作品を積極的に募集しています(LINEマンガ内にある「インディーズ」コーナーから作品投稿が可能)。
定期的に応募条件を満たした投稿者へ賞品贈呈をするイベントや、希望者への作品講評を実施するなど、世界の読者を夢中にさせる日本発のタテ読みマンガに、並ならぬ熱意と期待が込められているといえるでしょう。
(椎名治仁)
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