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『鬼滅の刃』と『進撃の巨人』のつながり ジャンプ編集部の“恐れ“が良い結果に?

マグミクス / 2020年12月11日 7時10分

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■連載開始前の『進撃の巨人』

 2009年の夏、筆者はあるテープ起こしの案件を請け負っていました。 テープ起こしとはインタビューや会議などの音声を文字にする作業のことで、ライター仕事としてはごく一般的なものです。守秘義務がありますので当然その具体的な内容を明かすことはできませんが、そのとき請けた、ある有名な漫画家同士の対談のなかに、「壁の中で巨人に怯えながら暮らすマンガが面白い」という話が紛れていたのです。

 その作品の名前は語られてはいませんでしたが、妙に気になった筆者は約1か月後、書店で月刊誌「別冊少年マガジン」(以下、別マガ)を手に取り、間違いなく話に出てきた作品である『進撃の巨人』を目の当たりにすることになりました。閉塞した平穏な日常が破られ、破壊と殺戮が吹き荒れる第1話を読み背筋をぞくぞくと震わせたあの日から11年。圧倒的な熱量で今なお紡がれる物語に、今なお魅了され続けています。

「別マガ」創刊号に掲載された15作品のなかで、今なお連載中なのは、『進撃の巨人』しかありません。なぜ、編集部は『進撃の巨人』を見い出し、大ヒットへとつなげることができたのか。これは、「別マガ」自体が「週刊少年マガジン」では扱いにくい、ダークファンタジー系作品を受け入れるために創刊されたことが大きく影響しています。週刊少年誌では、「巨人が人を食う」話を描くことはおそらく難しく、もし「別マガ」がなければ『進撃の巨人』はよりマイナーな雑誌でひっそりと連載され、それほど注目を浴びることなく終了していたかもしれません。

 Webでの連載という手段をとるにせよ、2009年の時点では有力な媒体はまだ電子コミックにそれほど注目しておらず、SNSを使用した宣伝手法なども、現在と比較するとまだ洗練されてはいませんでした。当時、『進撃の巨人』を世に出すためには、「別マガ」はなくてはならぬ存在だったのです。諫山創先生が持ち込みを行っていた時、講談社が「別マガ」の準備をしていた。これが天の配剤というものなのでしょう。

■『進撃の巨人』が『鬼滅の刃』を生み出した?

『進撃の巨人』を語る際、しばしば「週刊少年ジャンプ」(以下、ジャンプ)は持ち込まれた原稿を没にしたというエピソードが語られます。「友情・努力・勝利」を掲げ、熱血主人公の作品が多い「ジャンプ」の編集者が、「巨人が人を食べる」陰惨なファンタジーマンガを目にしたときにどう考えたのかは推測するしかありませんが、「この作品はウチには合わない」と判断するのはごく当たり前だと思われます。

 だからこそ、自分たちの手をすり抜けていった『進撃の巨人』の大ヒットは、ものすごく悔しかったはずです。そして何よりも、恐ろしかったのではないでしょうか。

 今までの自分たちのやり方では通用しない。トレンドの変化をとらえきれていない事実を突きつけられたのです。

 とらえきれないのなら、またすり抜けていくでしょう。新たに連載を立ち上げても、うまく行かないでしょう。無論、「ジャンプ」にも『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、ジョジョ)をはじめとするダークファンタジー路線の作品は存在しています。しかしかつて「ジャンプ」で『ゴッドサイダー』や『メタルK』というダーク系作品を連載していた巻来功士先生は、1980年代の「ジャンプ」黄金期の舞台裏を描いた著書『連載終了!少年ジャンプ黄金期の舞台裏』のなかで、『ジョジョ』に敗れて『ゴッドサイダー』の連載が終了したことを明かしています。この作品は筆者もリアルタイムで読んでいましたが非常に面白く、連載終了後には立て続けに単行本が重版されるほどの人気がありました。それでも打ち切られてしまうほど、ダークファンタジー系作品の連載継続は難しかったのです。

 推測ですが、「ジャンプ」は『進撃の巨人』を見逃したことをきっかけに、やり方を変えたのではないでしょうか。その代表例と思われるのが『鬼滅の刃』です。『鬼滅の刃』は「友情・努力・勝利」を取り入れ「人が鬼を退治する」という王道中の王道作品ではありますが、描写に関しては陰惨を極めています。また、連載開始直後の本誌掲載順位は後ろの方で、読者の一部からは打ち切りもささやかれていました。もし「ジャンプ」が10週打ち切りのルールを適用していたならば、2巻で終了してもおかしくはなかったでしょう。今までのルールに囚われない作品作りを志向した結果、歴史に残る大ヒットを生み出せた可能性は十分に存在します。

 また、近年では『呪術廻戦』や『チェンソーマン』、『約束のネバーランド』など従来の「ジャンプ」とは毛色が異なる傑作が次々と生み出されています。もしこの流れを『進撃の巨人』が作り出したとするならば、マンガ界における功績は、単なる1作品以上に大きなものがあるのかもしれません。

(早川清一朗)

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