配管工のマリオがなぜクッパと戦ってるの? 名作の設定に隠された“大人の事情”
マグミクス / 2020年12月26日 7時10分
■当時読み飛ばしていた?「説明書」こそマリオワールドへの入門書だった!
2020年はファミリーコンピュータ用ソフト『スーパーマリオブラザーズ』の発売35周年です。全世界で4000万本以上を売り上げ、テレビゲームの歴史を永遠に変えてしまった横スクロールゲームの金字塔です。さて本作をプレイした方なら分かる通り、とくに画面上でチュートリアルがあるわけもなく、いきなり「1-1」をプレイすることになります。
冷静にこのゲームを振り返ったとき、そもそもなぜ配管工であるマリオが助けに行くのか、どうしてクッパはピーチ姫をさらうのか、そんな素朴な疑問が湧き上がってはこないでしょうか? ブロックを叩けばキノコが出現、土管に入ればたくさんのコイン……世界観も今思えばなかなかサイケデリックです。早速、こうした疑問について調べてみたところ、なんとその答えの多くは『スーパーマリオブラザーズ』の「説明書」にしっかり明記されていたではありませんか。
一部を引用しますと……。
「キノコ達の住む平和な王国に、ある日、強力な魔法を操る大ガメクッパの一族が侵略して来ました。おとなしいキノコ一族は、皆その魔力によって岩やレンガ、つくし等に姿を変えられてしまい、キノコ王国は滅びてしまったのです」
いきなり、驚愕の事実が明かされます。ピーチ姫が治めていたキノコ王国はクッパの侵略のすえ、亡びてしまった。つまりピーチは亡国の姫だったのです。さらに衝撃的なのが「おとなしいキノコ一族は、皆その魔力によって岩やレンガ、つくし等に姿を変えられてしまい」の文。私たちがボカスカと壊していたあのブロックたちはみな、元々はキノコ王国の住民だったというのです。無自覚だったとはいえ、なんて残酷なことをしていたのでしょうか。さらに「説明書」には次のようなことが書かれています。
「このキノコ達の魔法を解き、よみがえらす事ができるのはキノコ王国のお姫様ピーチ姫だけ」
クッパがピーチ姫をさらう理由はここにあるようです。ただかわいいから、なんて安直な動機ではなく、ピーチ姫の魔法で侵略したキノコ王国を復活させないため、クッパはピーチ姫を誘拐したのでした。(そもそもピーチ姫がそんな復活魔法の使い手であったこと自体、驚きです)
さて説明書には「配管工のマリオがどうして助けに行くのか?」というところまでは言及されていません。どうやらこの疑問を解決するためには、「マリオ」の誕生までさかのぼる必要がありそうです。
「マリオ」が初めて登場したのは1981年に登場したアーケードゲーム『ドンキーコング』で、当時の名前は「ジャンプマン(仮称)」でした。キャラクターを8×8ドットで表現しなくてはならない開発環境で、いかに人間らしい姿を表現するか、宮本茂さんら開発チームが苦心して生み出したのが今でもおなじみの口ひげにオーバオールというマリオのあのビジュアルでした。ひげを描けば口を省略できるし、オーバオールなら腕と足の色が違うので走る時の動きも簡潔に表現できたのです。確かに『ドンキーコング』の舞台は建設現場であり、その格好から当時の「ジャンプマン」の職業は便宜上“大工さん”ということになります。まだこの段階では配管工ではないのがポイントです。
続いてそんなマリオと弟ルイージが主役の対戦ゲーム『マリオブラザーズ』が1983年に発売されます。その舞台は土管からカメが次々に飛び出してくる地下です。マリオのビジュアルはそのままに舞台を地下へ移動させたので職業も大工さんから配管工へと転じました。そして、そんなマリオを主人公に陸海空を駆け抜けるアクションゲームを作ろうと開発されたのが今年35周年の『スーパーマリオブラザーズ』だったのです。お姫様を救う主人公を誰にするか、というスタートではなくマリオが大冒険するゲームを作ろうという順序で開発されたので、職業はそのまま配管工で据え置きとなったのです。お姫様を救うアクションヒーローが配管工というユーモラスな設定はこうした当時の開発上の都合が大いに関係していました。
マリオの“設定”の不思議。そこには制限された開発環境(いうなれば大人の事情)のなかで発揮された創意工夫が満ちていました。開発当初より一切隙のない、ある意味では完璧といえる緻密なゲーム設計の基盤があったからこそ今なお世界中で愛されるコンテンツへと成長したに違いありません。ちなみにクリボーは「クリ」ではなく「しいたけ」だそうです。
(片野)
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