煙と喧騒に包まれた「ゲームセンター」は失われる…危険を冒しても行く価値があった?
マグミクス / 2021年8月20日 18時10分
■危険を承知で入る場所だった
つい先日、Twitterを眺めていたところ、「ゲームセンターは不良のたまり場だって聞いたことあるけれど、不良がプリクラとかUFOキャッチャーをやるなんて信じられない」という内容のツイートを見て愕然としました。
現在の「ゲームセンター」と呼ばれる場所の多くは、UFOキャッチャーやプリクラ、メダルゲームがメインの空間となっており、かつて花形だった対戦格闘ゲームやシューティングゲームなどの筐体を置いている場所は年々少なくなっています。現在のゲームセンターしか知らない方からしてみれば、「不良のたまり場」と言われても実感がわかないというのは当然なのでしょう。
かつてアーケードゲームに青春の一片を捧げた筆者にとっては、あまりにも残念な話です。筆者が思い浮かべるゲームセンターとは、電子音が入り乱れ、空気には煙草の煙がこびりつき、あまり素性の良くない人間がうようよしている空間だという実感があったからです。
実際、アーケード版の『ストリートファイターII』をプレイしていた頃、自分が勝って対戦台の向こうで「バン!」と筐体を叩く音が聞こえたときには近くにいる友人や仲間の数と相手の仲間の人数を確認し、自分たちの方が多ければ対戦を続け、少なければ熱戦を演じて最後はわざと負けるといった自衛策を講じていました。
それでも喧嘩になり、手近にあるものを振り回して逃げ出したことだって何度もあります。逆に言えば、危険を冒してでも行きたい魅力にあふれた空間、それがゲームセンターでした。
すでにファミコンなどの家庭用ゲーム機が存在するのに、どうしてわざわざゲームセンターへと足を運んだのか。その理由としては、PlayStationやセガサターン、それに先んじてNEOGEOが出る以前の時期は、アーケードゲームと家庭用ゲームのクオリティには大きな違いがあったことが大きいでしょう。
■ゲームセンターでしかできないことがあった
2020年12月にセガから発売された「アストロシティミニ」。懐かしのアーケード筐体「アストロシティ」をモチーフとしたゲーム機
また、『アフターバーナーII』や『スペースハリアー』『ダライアス』といった大型筐体を必要とするタイトルは、家庭用移植が実現した後も本格的な体験ができるのはゲームセンターだけでした。筐体に座り、レバーを握り、心拍数が上がるようなリズミカルなサウンドに身を任せて戦いに向かう気分に浸るあの時間は、今思い返せばかけがえのないものでした。
対戦格闘ゲームに関しても、近年は通信対戦が可能になっていますが、当時はまだインターネットは存在しないか黎明期でゲームの役には立たず、誰かと戦いたければゲームセンターに行くか友人宅にお邪魔するしかありませんでした。
対戦に役立つさまざまな情報も雑誌『ゲーメスト』に掲載されたもの以外は常連同士で教え合うか見て盗むしかなく、個人個人やゲームセンターごとに隠し技があったことを思い出します。
地元のゲームセンターでそこそこ強くなり、意気揚々と都心のゲームセンターに遠征してあっさり返り討ちに遭うこともしばしばありました。特に1990年代前半から半ばの対戦格闘ゲームブームの時代には、ゲームセンターにずらりと並んだ対戦台の後ろに、数え切れないほどの対戦待ちの人間とギャラリーが集っていたものです。
若者たちの熱気とコインを無限に飲み込み続けたゲームセンターが、なぜ数を減らしてしまったのか。理由はいくつもありますが、特に大きなものとしては消費税の導入が挙げられます。
主に1プレイ50円や100円で運営されていたゲームセンターにとって、プレイ代金に消費税を上乗せできないことは大きな痛手となりました。また、大型筐体の増加により小規模なゲームセンターではスペースと資金が足りず、看板作品となるタイトルを導入できなくなるといった問題も発生していたのです。近年はスマホアプリとも競合しており、ゲームセンターは極めて厳しい状況に立たされています。
1986年には26573軒のゲームセンターが営業許可を得ていましたが、2020年にはわずか3931軒へと数を減らしています。老舗と呼ばれたゲームセンターも続々と姿を消しており、2020年11月には「新宿プレイランドカーニバル」が、2021年1月には対戦格闘ゲームの聖地と呼ばれた「GAME SPOT21新宿西口」も閉店を余儀なくされました。
ゲームセンターで育った筆者にとって寂しい限りではありますが、高田馬場や池袋に店舗を構える「ゲーセンミカド」、秋葉原の「HEY」、大阪の「レトロゲーセン ザリガニ」など、まだ気を吐いている店は存在しています。いつか時代の流れに押し流されてしまうのかもしれませんが、ゲームセンターを守ろうとしている方々がいる限り、まだアーケードゲームに青春を捧げた日々の続きを追い続けることができる。それはとても嬉しいことだと思えるのです。
(早川清一朗)
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