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安彦良和監督『ククルス・ドアンの島』 マ・クベが口にするセリフの引用元は?

マグミクス / 2022年6月4日 9時30分

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■40年ぶりの帰還、15歳のアムロ・レイ

「オヤジにもぶたれたことないのに」

 そんなセリフも懐かしい、15歳のアムロ・レイが40年ぶりに帰ってきました。安彦良和監督の劇場アニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』が、2022年6月3日より公開が始まりました。

 今回の劇場版は、1979年〜80年に全43話がTV放映された『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」のリメイクとなります。ファーストガンダムのメインストーリーから外れた、南海の孤島を舞台にした1話完結の物語だったため、劇場版三部作には収められていません。地味で、目立たなかった24分の短いエピソードが、上映時間108分の見応えのある劇場作品に仕上がっています。

 アムロたち「ホワイトベース」のおなじみのクルーたちに加え、TVシリーズでは第31話から登場したスレッガー・ロウ中尉が、新しいクルーとして加入しています。3DCG化されたRX-78-02ガンダムもかっこいい、新しく生まれ変わった『ククルス・ドアンの島』の見どころ、気になるふたつのキーワードを紹介します。

■第二次世界大戦時に語られた「パリは燃えているか?」

 往年のガンダムファンは、懐かしい旧友たちと再会したような想いが込み上げてくるのではないでしょうか。ブライトさん、ミライさん、セイラさん、そしてカイ、ハヤト、フラウ・ボゥ……。地球連邦軍とジオン軍との一大決戦となる「オデッサ作戦」を前に、「ホワイトベース」は南海の孤島に潜むジオンの残党狩りを命じられます。ジョブ・ジョンが操縦する「ガンペリー」に乗って、アムロたちは、「帰らずの島」と呼ばれる小さな孤島に向かいます。

 無人島と思われていた「帰らずの島」には、子供たちがひっそりと暮らしていました。元ジオン兵のククルス・ドアンが、畑を耕しながら戦災孤児たちの世話をしていたのです。TV版では子供たちは4人でしたが、劇場版では20人に増え、ちょっとしたコミュニティとなっています。負傷したアムロは、島に滞在することに。映画の序盤は、TV版の設定に基づいたものとなっています。

 ジオン地球侵攻軍の司令官マ・クベが登場する物語中盤から、オリジナル色がいっきに強まります。オデッサでの決戦を控え、劣勢に立たされているマ・クベは、ある台詞を口にします。

「パリは燃えているか?」

 この言葉は、第二次世界大戦末期にナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーが発したものです。一時はフランスの首都・パリまで占領したナチスドイツでしたが、レジスタンスの反抗と連合軍の進攻により、フランスからの撤退を余儀なくされます。その際、ヒトラーは「連合軍にパリを渡すな。奪われるくらいなら、街を燃やせ」と部下に命じたのです。

 歴史上の結果を言えば、戦争犯罪者になることを恐れた部下は、ヒトラーの命令に従いませんでした。敗戦が濃厚となったナチスドイツは、もはや一枚岩ではなかったことが分かります。

 TV版は孤島だけの限定された物語でしたが、劇場版は連邦軍とジオン軍の命運を左右するスケールの大きな展開が待っています。

■ククルス・ドアンは「残置謀者」だった?

『ククルス・ドアンの島』では、TV版エピソードよりも多くの戦災孤児たちが丁寧に描かれている (C) 創通・サンライズ

 劇場アニメ『ククルス・ドアンの島』には、聞き慣れない言葉も使われています。「残置謀者(ざんちちょうじゃ)」という軍事用語です。戦争に敗れ、本隊が撤退した場合でも、敵の占領地にあえて残り、情報収集やゲリラ活動に従事した工作員のことを指しています。孤島に潜んでいた元ジオン兵のククルス・ドアンは、連邦軍から見れば「残置謀者」に思えたわけです。

 1974年(昭和49年)、太平洋戦争終結から29年ぶりに日本に帰国したことで世界中を驚かせた元日本兵・小野田寛郎さんは、「残置謀者」としての命令を旧日本軍から受けていたと言われています。軍が撤退した後も、小野田さんはフィリピンの孤島ルバング島に残り、サバイバル生活を続けたのです。

 都市伝説の世界になりますが、小野田さんが孤島にずっと潜んでいたのは、「マレーの虎」と呼ばれた山下奉文将軍が隠した「山下財宝」を守るためだったのではないかという説が流れたことがあります。孤児たちの世話をする心優しいククルス・ドアンですが、彼も重大な秘密を隠しているようです。

■どうすれば憎しみの連鎖は断ち切れるのか

 ククルス・ドアンが操縦するドアン専用ザクはTV版とは違って、ヒートホークを武器として持っています。「赤い彗星」の異名を持つシャアと並ぶほどの凄腕の戦士だそうです。ジオン軍が放ったモビルスーツ隊「サザンクロス隊」に、ドアンとアムロは立ち向かうことになります。任侠映画『昭和残侠伝』(1965年)を思わせる、ゾクゾクするクライマックスです。

 劇場版は新旧ファンがともに楽しめるようエンタメ要素がしっかりと盛り込まれていますが、もちろんオリジナル版のエッセンスは大事に受け継いでいます。「帰らずの島」に滞在するアムロと、孤児たちとの交流がとても丁寧に描かれています。「ホワイトベース」に乗っていなければ、15歳のアムロも孤児たちと同じような境遇だったのではないでしょうか。

 戦争が起きれば、家や街は破壊され、兵士たちの命だけでなく、市民の命も奪われ、多くの戦災孤児を生み出します。そして、憎しみは連鎖していくことになるのです。

 折しも、ロシア軍がウクライナに侵攻し、一年戦争の舞台となったウクライナ南部の都市・オデッサも戦火に見舞われています。どうすれば戦争を終わらせ、憎しみの連鎖を断ち切ることができるのでしょうか。

 ククルス・ドアンの島で過ごす1時間48分は、アムロと一緒にそのことを考える時間にもなるはずです。

※『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、6月3日より公開中。
原作/矢立肇、富野由悠季 監督/安彦良和 テーマ曲/森口博子「Ubugoe」
CAST/古谷徹、武内駿輔、成田剣、古川登志夫、潘めぐみ、中西英樹、池添朋文、新井里美、福圓美里
配給/松竹ODS事業部

(長野辰次)

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