歴史に興味を持った人がぶち当たる壁「史実と歴史物語のギャップ」とは?
まいどなニュース / 2024年5月2日 16時35分
歴史に興味を持った人がぶち当たる壁の一つに「史実と歴史物語のギャップ」がある。今、SNS上ではそんな壁に関しての指摘が大きな注目を集めている。
「史実ではなく歴史物語が好きなことに気づく前に史学科に進んで、そこで落胆して去ってしまうという話は時々見聞きする。この問題は、自動的には解決しないだろう。」と投稿したのは歴史家の乃至政彦さん(@naishimasahiko)。
ドラマや小説、漫画などから歴史に興味を持つ人は多いと思うが、そういった創作物を楽しむことと実際の歴史の研究には大きな感覚の隔たりがあるのだ。「きっと史学と物語どちらの側も救うことは多分できない」「そうではないところで、なにか別の道を提示する機運があればいいんだが、ギリギリで歴史ゲームぐらいだろうか」という乃至さんの一連の投稿に対し、SNSユーザー達からは
「その辺の話は自分達も史学科に入学した時先生に忠告されましたね。自分の場合は逆にのめり込む事になりましたが、だいぶ根深い問題ですよね」
「大学一年次(非史学系)に各学科の履修科目一覧を渡され、史学系を覗いた時はガッカリしましたね。二年まではひたすら言語を鍛えるカリキュラムだったので。後に一次史料を読めねえと意味ねえだろ、と納得しましたが。」
「歴史小説が好きなだけで古文書が好きなわけじゃないって人はツラいだろうなぁ」
など数々の共感の声が寄せられている。
投稿した歴史家に聞いた
乃至さんに話を聞いた。
ーー歴史物語を好きな方が歴史を学ぶにあたり起こりやすい齟齬とは?
乃至:神話と史実が違うように、「物語」の歴史と「研究」で構築される歴史とは別物です。歴史物語に関心の強い方が史学の世界に足を踏み入れると、それまで知っている歴史の修正や再解釈ではなく、むしろそれらを否定して根本から組み立て直す作業で驚く傾向があるようです。
それだけならいいのですが、教える側と学ぶ側に物語を見下す傾向もあるので、とっつきにくいところはあるでしょう。創作物から入った方は、現在知られている歴史を大筋で間違えているものではなく、歴史研究を細部の修正や新解釈を加えていくもののように見ているかもしれません。しかし、実際の歴史研究はむしろその今知られている歴史を根本から見直す作業を繰り返すようなもので、物語の解釈とは縁遠いものです。
その比較は、4月に文庫化しました『戦国武将と男色 文庫版』(ちくま文庫)でも実践していますが、例えば「戦国時代は、男色が武士の嗜みとされた。男色は今でいう同性愛で、当時は今に先駆けて誰もこれを批判的に見ないジェンダーフリーな需要があった」とする通説を否定しています。
ーー歴史研究をする上で心がけるべき姿勢とは。
乃至:歴史研究を志す前に、まずは歴史学やそれに類する一般書に触れてみるのがいいと思います。なにを読めばいいのかわからなければ、有名な歴史学者のお堅い書籍を検索してみましょう。図書館になかったら、その人の名前でCiniiに「本文・本体リンクあり」の条件付きで学術論文を探してみて読んでみましょう。その時点で内容を理解する必要はありません。こういうことを10回ほど繰り返せば、どういう世界なのか見えてくると思います。
ーー投稿の反響へのご感想をお聞かせください。
乃至:中には過去にトラウマを抱えている方も見受けました。今まさにこの問題に直面している方もおられるようでした。歴史学の先生方は、物語に否定的な感情を深層意識に持っている方もいます。ここに違和感を抱く方は、そこを乗り越えて歴史学のノウハウを習得し、新たな物語を構築することを考えてみてほしいですね。
◇ ◇
これから歴史を学びたいと思う方、特に大学進学を控えている方はぜひ参考にしていただきたい。
なおインタビュー中でも触れられた『戦国武将と男色 増補版』(ちくま文庫)は乃至さんが既存の学者、作家とは一味違った視点から実証を積み上げると同時に、新たな物語、解釈を提示した力作。歴史の探求を深め、解釈を豊かにしようと志す方におススメの一冊だ。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)
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