USスチール買収問題で浮かび上がる米国の本音 2025年、トランプ流ディール外交が突きつける”日米同盟”の現実
まいどなニュース / 2024年12月31日 6時50分
11月の米国大統領選挙で圧勝したトランプ氏が2025年1月、ホワイトハウスに戻って再び政権運営を開始する。トランプ政権で外交・安全保障政策を担う要職には相次いで対中強硬派と呼ばれる人物が起用されており、同政権は最重要課題である中国に対して厳しい姿勢で臨むものと考えられる。国務長官には、中国・新疆ウイグル自治区における人権問題を強く非難し、中国による軍事的脅威に直面する台湾を軍事的に支援する必要性を訴えるマルコ・ルビオ上院議員が、安全保障担当の大統領補佐官には軍拡が進む中国に対抗するため米海軍の増強を訴えるマイク・ウォルツ下院議員がそれぞれ起用され、トランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、その保護貿易路線を加速させたピーター・ナバロ氏が通商・製造業担当の大統領上級顧問に抜擢されている。
これに照らせば、トランプ政権は対中国を念頭に日米同盟を外交や安全保障だけでなく、経済や貿易の観点を含み重視してくると多くの人が思うかも知れない。実際、日本製鉄によるUSスチール買収の問題について、日本では米経済に多くの恩恵をもたらす合理性があるにもかかわらず、信頼できる同盟国日本の企業による買収になぜここまで米政権が渋るのかという疑念の声が多い。しかし、トランプ政権が発足するにあたり、日本は今一度この同盟の意味をきちんと認識しておく必要があるだろう。
まず、日米同盟には2つの側面がある。我々が無意識のうちに認識しているのは、「日本からみる日米同盟」というもので、要は、日本にとって唯一の軍事同盟国が米国であり、外国軍で唯一日本に駐留するのが米軍である。それによって、日本人の間では何か戦争が始まれば米軍が共に最前線で戦い、日本を守ってくれるというような認識が少なからずあり、それが上述の買収問題における日本側の疑念(なぜ同盟国企業による買収に渋るのか)にも一定の影響を与えているものと考えられる。太平洋戦争で日本と米国は衝突したが、その後に日本は米国と唯一軍事条約を締結し、自由や民主主義、市場経済や自由貿易など米国が重視する価値やルールを共有して今日に至っているが、米国との関係を特別視する見方は依然として根強い。
しかし、米国が同じように認識しているわけではない。それが、「米国からみる日米同盟」である。日本からすると軍事条約を締結する唯一の国家だが、米国はNATOだけでなく、インド太平洋地域では韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど多くの軍事同盟国がある。無論、海洋進出を強める中国や北朝鮮、台湾有事などを想定すると日本が地政学的にかつ米軍の規模的に最重要国家と言えるが、日本が思うほど米国にとって日本が特別な国家というわけではない。日本製鉄によるUSスチール買収で米国が安全保障上の理由から渋っている件について、日本では同盟関係が問われるとの報道もあるが、これは日本からみる日米同盟という見方によるものだ。米国からすれば、同盟国であっても安全保障上の理由からすぐにはイエスと言えないということであり、これこそが米国からみる日米同盟である。日米同盟には2つの側面があるのだ。
そして、トランプ政権の誕生により、我々にはこの2つに加えてもう1つの同盟の意味を認識する必要がある。トランプ政権が最も重視しているのは、同盟国や貿易相手国から最大限の譲歩や妥協、利益を引き出し、紛争など外国が持つ負担による米国への影響を最小限に抑え、米国の経済的繁栄と安全、平和を強化し、米国を再び偉大な国家(Make America great again)にすることである。そして、トランプ政権が商取引的かつ損得勘定的なディール外交、個人と個人との関係を基本とすることを考慮すれば、これまでのような日米同盟がそのまま続くとは一概には言えない。
無論、トランプ政権になっても日米同盟は当然ながら続くのだが、トランプ政権のもとでは新たに”同盟国”となる必要がある。トランプ政権は自由や民主主義といった理念や価値をバイデン政権のように重きを置かず、実利的な友好関係を築ける相手かどうかに評価基準を置く。要は、石破政権の対米外交によって米国の同盟国になれるかどうかが懸かっており、トランプ政権にとって伝統的な同盟国が必ずしも同盟国とは限らない。「条約上は同盟国だが実際は同盟国とは言えない」ような状況に日本が陥るリスクもあろう。
日本製鉄によるUSスチール買収問題、トランプ政権の発足を受け、我々は今一度同盟の意味を探る必要があろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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