山で罠にかかり前足を失った野良犬「貰い手がいなさそうな子こそ」家族に→1年後、穏やかな寝顔を見せるように
まいどなニュース / 2025年1月14日 16時30分
岡山県総社市で3匹の犬と3匹の猫と暮らす小川久美さんは一昨年、ちょっと不思議な体験をしました。
「2023年に大型犬2匹同時に介護が必要になり、当時は仕事も忙しくて、ペットシッターさんに来てもらったり大変でした、その2匹を夏に相次いで看取ると力が抜けたようになっていたのですが、ふとした瞬間、寂しさが湧いてきて…。そうしたら、足元に『せとうちドッグパーク』のチラシがヒラヒラと落ちてきたんです。どこにあったのかまったく分からないのですが、とにかく行かなければと思い、すぐに旦那と向かいました」(小川さん)
せとうちドッグパークとは『一般社団法人 せとうち保護犬猫の里』が運営する施設。常設譲渡会場としての機能やドッグラン、ドッグサロンがあり、保護犬や保護猫が暮らしています。小川さん夫妻がそこで出会ったのが、今一緒にいるモモタロくんです。
モモタロくんは岡山市の山中で仲間と暮らしていました。その場所には数十年前からたくさんの野良犬がいて、多くは疥癬(かいせん)やアカラスなど大変な苦痛を伴う皮膚病やフィラリア症、マダニによる吸血、ケンカによるケガなどに苦しめられていたと言います。
野良犬も野良猫も繁殖問題の解決には不妊手術が必要不可欠ですが、野良犬の場合、野良猫のようにTNR(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す) は許されません。問題を解決するにはすべての犬を保護し、不妊手術や必要な治療を行い、人馴れ訓練をした上で家族になってくれる人を見つけるしかないのです。
「そうした活動は私たち“ボランティア”の手に委ねられていましたが、多くの野良犬を仕事も家庭もある数人のボランティアで保護して、全責任を負うことなど不可能です。野良犬の成犬を保健所に引き渡せば、待っているのは殺処分ですし…。私たちにできるのは、成犬には手を出さず、生まれてきた子犬を幼いうちに保護して、迎えてくれるご家族につなげることだけ。そんな時代が数十年続きました」
そう話すのは、犬猫の保護活動に携わるようになって30年の西村朋美さん。今は『せとうち保護犬猫の里』でボランティアをしていますが、時代の流れと共に状況に変化が見られると教えてくれました。
山中にいる成犬の野良犬保護に取り組み始めた
「動物愛護の機運が高まるにつれて、保護活動を行う人や、譲渡先が見つかるまで保護した犬を預かってくれる“預かりボランティア”さんが増えました。また、岡山市保健所では2020年から『保護犬の人馴れ訓練プロジェクト』が始動し、保健所に収容された犬のうち人馴れしていない犬に訓練をして、譲渡につなげてくれるようになりました。やっと、野良犬が保健所に収容されても、殺されることなく新しい家族を見つけてもらえる時代がやってきたのです!」
こうしたことから、西村さんたちボランティア仲間は連携し、山中にいる成犬の野良犬保護に取り組み始めました。その中の1匹がモモタロくんです。保護されたのは2022年9月。左前脚を失った状態でした。
「その辺りにはイノシシの“くくり罠”が仕掛けられていて、誤ってかかった野良犬たちが罠を引きずって歩いていたり、手足がちぎれていたり…痛々しい姿の犬が何匹も目撃されていました。モモタロも最初は手が残っていましたが、数か月を要した捕獲前に壊死が進んで完全にちぎれ、近くの畑に落ちていたそうです。細菌感染の全身への影響を防ぐためには断脚するしかなく、すぐに手術してせとうちドッグパークで保護しました」(西村さん)
「見た目は関係ない。貰い手がいなさそうな子こそ迎えたい」
そんなモモタロくんに目を留めたのが小川夫妻でした。「見た目は関係ない。貰い手がいなさそうな子こそ我が家に迎えて幸せにしてあげたい」というのが夫婦共通の考えで、帰りの車の中でどちらからともなく「モモタロ」という名前を口にしたそうです。こうして保護から1年以上たった23年12月、モモタロくんは小川夫妻の家族になりました。
家に来た当初はごはんの食いつきが悪く、オヤツも食べない、触ることもできない、表情は固まったまま、散歩にも行けなかったというモモタロくん。
「庭でオシッコとウンチをして家へ入るだけの毎日。何が楽しいんだろうと少し切なくなりましたが、不思議と『なんとかなるんじゃないか』と思えたんです」
そんな小川さんのポジティブな読みは当たりました。譲渡から1年近く掛かりましたが、オヤツの袋のガサガサという音に反応して近づいてくるようになり、手でちょんちょんと“催促”するようになり…何より「目が変わった」と言います。
「昨年11月にせとうちドッグパークからもう1匹、ちびりきという子を迎えたんです。モモタロが施設で1年一緒に過ごした子で、ちびりきをきっかけにモモタロは自分を出せるようになりました。散歩も5分で走って帰りますが(笑)、行けるようになったんですよ」(小川さん)
この“変化”が保護犬を迎える醍醐味だと言う人もいます。
「変わるのは年単位で考えています。その子、その子のペースでいい。亡くなるときにうちでよかった、と思ってくれればそれでいいんです」(小川さん)
モモタロくんはすでにそう思っているに違いありません。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)
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