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国天然記念物の植物群、40年調査せず 近くで採掘、絶滅危惧の花消滅か

毎日新聞 / 2024年6月20日 5時15分

武甲山に自生していたチチブイワザクラの写真。1990年春ごろ、写真家の清水武甲さん(故人)が撮影した

 埼玉県秩父市と横瀬町にまたがる武甲山(標高1304メートル)にある国指定天然記念物の石灰岩地植物群落について、1982年以降、管理する横瀬町が植生などの現地調査を実施していないことが毎日新聞の取材で判明した。石灰岩の採掘地近くで人が立ち入らない場所のため、町は「調査に伴う環境負荷による『変化』よりも、調査しない『現状維持』を優先させた」とする。だが採掘で山容は変化し、指定地の一部に入った6年前の民間調査では、この山にだけ自生するチチブイワザクラは確認されず、指定地内では姿を消した恐れもある。

埼玉・武甲山 石灰岩採掘地

 文化財保護法に現地調査に関する規定はないが、文化庁は「40年超も行われなかったのは残念だ。保護や維持のためには、実態を把握する必要がある。調査は本来、定期的に行うべきものだ」と指摘する。

 北斜面の石灰岩地にある植物群落は学術的に貴重として、51年、天然記念物に指定された。群落の中でも岩場の割れ目などで春に2~3センチの赤紫の花をつけるチチブイワザクラは国のレッドリストで近い将来、野生で絶滅する危険性が極めて高い絶滅危惧1A類に分類されている。

 北斜面ではセメントの原料になる石灰岩の採掘が大正時代に始まり、戦後復興や高度経済成長を支えた。採掘量はピークの90年代に1200万トンを超えた。2010年には706万トンに減ったが、今も3社が採掘している。

 採掘による環境変化に伴い天然記念物の指定地も変遷。当初は標高980~1040メートルの約3万1600平方メートルだったが、周辺の乾燥化が進み、1981年からの現地調査でチチブイワザクラが見られなくなったことが判明。83年に標高595~755メートルの約3万2000平方メートルが追加指定され、その後、元の指定地は解除された。

 新たな指定地は採掘3社のうち「菱光石灰工業」(本社・東京都)の事業区域内にあり、関係者以外は立ち入りできない。町は同社の協力で事業区域内に「特殊植物園」を設置し、固有植物の保護・増殖に取り組んでいる。指定地周辺でチチブイワザクラなどを植栽しているが、定着には至っていないという。

 2018年10月に指定地の一部に入ったのはNPO法人「埼玉県絶滅危惧植物種調査団」だ。レッドデータブック作成の情報収集のため、横瀬町などの許可を得て調査。小規模な岩壁などを見て回り、チチブイワザクラについて「82年の現地調査で自生の記録はあるが詳細な場所の記載はなく、時間的、地形的制約もあり確認できなかった」と報告した。

 また、菱光石灰工業の事業区域内(指定地を除く)でも、チチブイワザクラの自生は確認できていないという。

 横瀬町によると、現地調査は追加指定前の82年が最後。町教育委員会は「指定地は普段立ち入りが禁止され、崩落など極端な変化も見られない。40年以上放置したわけではなく、植物園などで保護も図っており、一定の成果は出ている」と説明した。文化庁は「地元の事情も聞いた上で、協力して保護に必要な対策を取っていきたい」としている。【照山哲史】

維持管理に定期調査は不可欠

 チチブイワザクラの研究実績があり神奈川県文化財保護審議会委員を務める横浜国立大の倉田薫子教授(生物多様性保全)の話 チチブイワザクラは40年以上の植生変化により、指定地内では消滅した可能性がある。特定の植物個体なら変化の観察は容易だが、植物群落では植生遷移、生育環境や気候の変化などで群落を構成する種類が変わるので、維持・管理には定期的な調査が不可欠。可能なら中長期的なモニタリング計画を作るべきだ。天然記念物は地域の遺産であり、人々の自然観や地域への愛着を育むことができる。未来に残すべき価値あるものであることを認識し、住民に開かれた維持管理をしていくことが望まれる。

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