中学生ピースメッセンジャー、戦争体験者と交流 「自分ごとに」
毎日新聞 / 2024年10月30日 12時25分
三重県名張市内の中学生代表10人が戦争の歴史や平和について学ぶ「なばりピースメッセンジャー」が12月8日、5回の学習会などで考えたことを市の人権週間行事で発表する。メッセンジャーは、市が2024年度に新設した。全ての市立中学校5校の代表で、戦争体験者らの講演や、各校の修学旅行で学んだことを発信する。担当者らが「身近に戦争体験者がいない生徒が、自身に関わる問題と気付くこと」を目指し、学習会を組み立てている。
戦争を体験した父、故・茂さんの苦しみに接して育った北川裕之市長の重点事業。茂さんは第二次世界大戦末期に撃沈された戦艦大和の乗組員で、自身の生還と、仲間の死の記憶に自責の念を抱えて生きた。事業では、人々の記憶の継承と、歴史の学習を平和の構築につなげて考えてもらうことを目指す。
学習会は、名張市青蓮寺の山中への米軍爆撃機B29の墜落などの講演でスタート。8月には、国の被爆体験伝承者の派遣を受けた。被爆者が高齢化する中で次世代への体験継承のため広島市が養成する伝承者で、祖父が入市被爆し、広島でボランティアガイドを務めてきた峠朱美さんが訪れた。8月には名張市内の平和イベントにも参加し、市内の被爆者の講演を聞いた。10、11月は、12月の発表の内容を話し合う。
市教委によると、峠さんの講演後は「(原爆の被害に)ショックを受けた。怖い」「被爆後も長く体をむしばまれるなんて」などの感想があった。だが、自らの言葉で考えを語るのは簡単ではなく、平和イベント後の発表では、「何かで調べたような抽象的な発言」が大半に。10月の学習会では、市教委の中学校教員経験者らが生徒の発表後、「広島の修学旅行で話を聞いた中で、印象に残った内容は」などと質問し、思考を深めさせようとしていた。
市教委は「発表自体が生徒の目的になってはいけない。自分ごととして感じ、考えて広く発信できるようにサポートしたい」としている。
ヒロシマ、生き抜いた曽祖父
名張市のピースメッセンジャーの中には、着任をきっかけに家族の戦争体験を詳しく聞いた生徒もいる。市立名張中2年の竹内悠菜さん(14)は、曽祖父(故人)の広島での体験を母から伝えられた。曽祖父が住んでいたのは、被爆資料が残る袋町小学校(爆心地から460メートル)の近くだった。原爆投下前に空襲警報が解除されたが、自宅から移動し続けて命は助かったという。
竹内さんは9月の修学旅行で、袋町小学校も訪ねた。原爆投下で、教職員・児童ら約160人のうち生き残ったのは数人。臨時救護所となり、被爆者が安否や様子を書いた伝言が壁に残ることも知った。「会ったことのない曽祖父が、つらい体験をした一人だ」と実感したという。
竹内さんは修学旅行などを通して、「日常を壊された人たちが、どうやって前を向いて生きることができたのか」と考えさせられた。母からは、被爆して鼓膜が破れて耳が聞こえなくなった親族がいたと聞いた。竹内さんも耳が聞こえにくくなって悩んだが、戦後を生き抜いた曽祖父や親族を知り、励まされたように感じている。【久木田照子】
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