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地域に「どっぷり」 増える空き家をリノベで分散型ホテルに 高知

毎日新聞 / 2025年1月29日 14時0分

キッチンとダイニングスペースは古材とステンレス素材を組み合わせ、カフェのような空間に仕上げた=高知県土佐清水市窪津で2025年1月20日、前川雅俊撮影

 県土の93%を中山間地域が占める高知県。過疎化が進む中山間地域などの活性化を狙い、2024年4月から4年間の「どっぷり高知旅キャンペーン」を展開して観光客誘致に力を入れている。だが、高知市中心部以外では宿泊できる施設がほとんどないのが実情だ。課題を解決するため、増え続ける空き家をリノベーション(改修)し、地域をまるごと宿泊施設にする「分散型ホテル」の取り組みが高知でも動き出している。

 高知県の西南端、足摺岬の付け根にある土佐清水市窪津地区。約200世帯350人ほどが暮らす、豊かな自然に囲まれた小さな漁師町だ。大敷(おおしき)(定置網漁)以外に働く場所はほとんどなく、高齢化と人口減少が進む。

 そんな窪津地区で、空き家だった3軒の民家を改修した分散型ホテル「satoyadoくぼつ」が2月中に本格開業する。運営するのは、同地区の大敷で働く人々でつくる「窪津共同大敷組合」で事務員をしている林千博(ちひろ)さん(40)だ。

 林さんは窪津地区の隣の津呂地区で生まれ、高校を卒業するまで暮らしていた。大阪の専門学校を出た後、高知へ戻り、8年ほど前に地元から近い同組合で働き始めた。

 昔と比べて人が減り、空き家が増えて、集落の風景がどんどん寂れていく。子供たちが高校生になると多くは下宿暮らしになり、教育費がかさむが、子育て世代の漁師の妻がアルバイトできる場所はない。同組合で働くことを考えてくれる移住希望者が一時滞在できる施設もない――。地域の課題に向き合う中で、空き家を活用した分散型ホテルを考えるようになった。

 前の職場時代からの知り合いで、県内で民間主導のまちづくりを目指すコンサルタント会社などを経営している小松一之さん(48)にそんな思いを常々、打ち明けていた。小松さんの協力や大敷のバックアップで、2年ほど前から分散型ホテルの計画が実際に動き出した。

 空き家を所有する大敷の組合員の親族や知人を、「地域のみんなのためになる施設を作りたい」と口説いて回った。林さんの考えが伝わり、3軒確保することができた。最後のハードルは改修も含めた資金の調達だった。最終的に、計画に賛同してくれた四国銀行から融資を受けて、小松さんが出資しているリノベーション会社が物件を購入して改修、林さんが借りて運営することが決まった。改修作業は24年9月から始まり、25年1月下旬に最後の3棟目がようやく完成した。

 賃貸料を抑え、無理なく経営できるビジネスモデルにするため、土地・建物の取得費も含めて1軒当たりの費用総額は300万円に抑えた。そのために林さんも仕事終わりや休日を利用し、内装の改修作業を手伝った。林さんの子供たちや大敷の仲間が参加してくれることもあった。ゆったりくつろげるようにと、ダイニングには古材を使ったテーブルや家具を置き、水回りはステンレスなどを使いクールな雰囲気に仕上げた。小松さんによると、稼働率25%で林さんの収支がトントンになり、事業全体も回る見通しが立っているという。

 「2~3泊して、何とも言えない窪津の空気感を味わってもらいたいんです。車で10分ほどの土佐清水の中心部には、風情がある銭湯やディープな居酒屋があるので紹介したい」。林さんの地元への思いは熱い。宿泊客と地元の人たちとの交流を増やすため、地域の施設を利用したバーベキューや魚さばきなどの体験メニューを考えているほか、「大敷で揚がったばかりのとびきり新鮮なサバやアジなどの刺し身を味わってほしい」と、ホテルで提供するために必要な資格を取る準備も進めている。

 開業後は当面、本業の大敷の事務員をしながら、チェックインとチェックアウトを林さんが担当し、清掃は地域の人にアルバイトでやってもらう。軌道に乗れば業務の大半をアルバイトに任せ、将来はホテルを10軒程度にまで増やして、より多くの雇用とにぎわいを作り出したい考えだ。

 「satoyadoくぼつ」は近く大手民泊仲介サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」で予約が可能になる見込み。問い合わせは、メール(satoyadokubotsu@gmail.com)か、林さん(090・8708・9753)まで。【前川雅俊】

分散型ホテル

 過疎化した地域の空き家や古民家を活用し、地域全体をホテルに見立てる「分散型ホテル」は、2018年6月に従来の規制が緩和された改正旅館業法が施行されたことで、全国各地に広がった。四国では大洲城を中心とした城下町である愛媛県大洲市で20棟以上の古民家を改修した「NIPPONIAHOTEL大洲城下町」の取り組みが成功例として知られている。  高知県は、分散型ホテルを「どっぷり高知旅キャンペーン」の核になる事業の一つとして位置づけている。土佐清水市の窪津地区は第一弾で、仁淀川町の池川地区、東洋町の甲浦・生見地区でも具体的な計画作りが始まっている。担当する県地域観光課は「当初計画では4年後に6地区が目標だったが、より多くの地区に広げていきたい」としている。

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