亡き母の思い出の残る理髪店で...脱線事故から19年 店を守る父と息子「母親のお客さんですから、いい加減な仕事はできないね」JR福知山線脱線事故
MBSニュース / 2024年4月25日 11時54分
2005年4月25日、月曜日の午前9時18分ごろ、乗客を乗せた列車が脱線しました。記憶に深く刻まれる大きな事故。この事故に家族が巻き込まれてしまった後、すぐに店を再開させた理髪店がありました。母の思い出の残る店内で、息子は今も変わらず営業しています。
母・父・息子の3人が理容師
兵庫・西宮市にある「ヘアーサロンにしの」。ハサミの音が響く店内。この道60年以上の西野道晴さん(84)は、慣れた手さばきで髪をカットしていきます。
(西野道晴さん)「妻が使っていたハサミ。妻のお客さんをずっと引き継いでいるわけやから」
使っているのは妻・節香さんが愛用していたハサミです。
(客)「お母さん亡くなって満19年になるなって思って」
(西野道晴さん)「年月が経つのは早いわ」
(客)「(節香さんは)非常に明るくていいお母さんでした
(客)「(Q節香さんとの思い出は?)おはなし。わしは恋人代わりに来てたような状態やった。あんな突然にさよならしはるなんて」
そっと見守るかのように店内に飾られた節香さんの写真。店は節香さんが亡くなってからも息子・勝善さん(54)と2人で続けてきました。
(西野勝善さん)「(Q節香さんはどんな人だった?)バリバリ仕事をする人でしたね。仕事最優先みたいな感じの」
(西野道晴さん)「口が達者やし技術も一流やしね。残念ながらね、事故で亡くなったけど」
2005年4月25日に起きたJR福知山線脱線事故
2005年4月25日、月曜日。兵庫県尼崎市でJR福知山線の快速電車がスピードを出しすぎ、カーブを曲がりきれずに脱線。乗客106人が犠牲になりました。
節香さんもその電車に乗り合わせ、帰らぬ人となりました。乗っていたのは2両目。犠牲者が最も多かった車両でした。
(西野道晴さん 2005年4月)「家内の非常に精神的なものが大きかったもんでね。大ショックを受けて何がなんだか」
父・母・息子が理容師という西野さんの家。中でも節香さんは数々のコンクールで受賞して店の看板でした。
(西野道晴さん)「妻はもうこの世におらんねやなということが、一日一日寂しさと、感じてくるんでしょうね」
店が休みだったあの月曜日。節香さんは珍しく外出し、普段は乗ることのない電車で大阪に出かけました。
(西野勝善さん)「ホンマは月曜日…昨日、自分が車で送っていくはずだったんですよ。大阪市内まで車で行ったら危ないから送らんでええよって言って、バスに乗って行ってしまったんですけど。いつもの生活がどん底に落ちるというかバラバラになってしまうというかね。一人欠けたらこんなにこう、なんというんですかね、真っ白になるというかね、空っぽになってしまうのかという感じです」
事故の8日後 母の代わりに店を守る決意で再開
事故の5日後、現場へやってきました。息子の勝善さん、母への思いがあふれます。
(西野勝善さん)「お母さん、勝善や!そんなところで寝てんと早よ起き。迎えに来たで。車で迎えに来たで。一緒に家に帰ろう」
事故から8日後、ゴールデンウィークの最中、店を再開させました。悲しみに打ちひしがれていた西野さん親子。それでもなんとか日常を取り戻そうとしていました。ただ、やってきた常連客にハサミを入れたのは、父ではなく息子の勝善さん。母の代わりに店を守ろうと決意したのでした。
(西野勝善さん)「母の残したカルテとかありますので、何とかそれ見ながら、少しでも母親の仕事に近づけるように頑張って。しばらくはお客さんに甘えさせていただくことになりますけど、どうかよろしくご指導お願いします」
息子は母からのバトンを受け取りました。
あれから19年「ヘアーサロンにしの」の今
あれから19年。母に少しでも近づこうと、勝善さんは店に立ち続けています。
10年ほど前に父から引き継ぎ、店を切り盛りしています。
(電話に出る西野勝善さん)「はい、もしもし、にしのです。2時ごろですか?いけますよ。お待ちしてます」
店には母が担当していた馴染み客らが入れ替わり立ち替わり訪れます。
(客)「昨夜でも突然雷鳴って」
(西野勝善さん)「きのうはひどかったですね」
(客)「案の定あのまま甲子園も」
(西野道晴さん)「中止になりましたね」
母が大切にしてきたお客さんとの時間。ゆっくりと流れる時間は母がいたころと同じです。
(客)「(Q息子さんに切ってもらっていかがですか?)私はもうすっかり、奥さんがみんなつないでくれはって、これだけ好き勝手なことを言えるような、いうてみれば家族みたいなね、気持ちで付き合いを私はさせてもらっているんだけど」
(客)「サンキュー」
(西野勝善さん)「はい、お待ちどおさまでした」
母からのバトンは確かに受け継がれていました。
(西野勝善さん)「身が引き締まると言うんですかね。やっぱりうちの母親のお客さんですからね。引き継ぎなんで、やっぱりいい加減な仕事はできないね」
節香さんが眠る墓に…4月は特別な気持ちに
4月16日、2人は墓参りに訪れました。節香さんが眠る墓を丁寧に掃除して花を供えます。時々訪れる場所ですが、命日の近づく4月は特別だといいます。
(西野勝善さん)「悲しみだけではなくて、自分も見習ってしっかりしないといけないなと。志を新たにする機会ですね、この時期は」
(西野道晴さん)「天国で安心して頑張ってるなって思ってくれたら、それが供養かなと思って。それだけやね」
店は今年で39年を迎えました。勝善さんはスキルを磨き努力を続けてきました。
(西野勝善さん)「うちの母親はとにかく人が好きでしゃべくりまくる人だったんですね。人の集まるような場を作りたいなと思っています」
節香さんの思いをのせて、きょうもハサミがリズムを刻みます。
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