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震災で「家具の下敷きになり右脚切断」の男性 見舞金の支給に高い壁「対象が重度すぎて...右脚レベルはどうでもいいの?」進まない「震災障害者」への調査と支援「『わがこと』として捉えて」

MBSニュース / 2025年1月9日 15時30分

 阪神・淡路大震災から30年。震災が原因で後遺症を負った「震災障害者」がいることを知っていますか。死者数や行方不明者数は公表された一方で、震災障害者の調査や支援は、これまで積極的に行われていないのが実情です。約30年間、複雑な思いを抱きながら生きてきた、当時者の思いを取材しました。

家の下敷きになり…6時間も圧迫され続けた両脚

 馬場覚さん、52歳。1995年1月17日、神戸市東灘区の自宅アパートで被災しました。

 (馬場覚さん)「(Q当日のことは覚えている?)僕は正直気がついたら、もう家屋の下敷きになっていた。周りに何かないかと。それで僕の記憶では何かたたいた記憶がある。『ここいてるよ』って」

 馬場さんは倒れてきた家の梁などに両脚をはさまれて、身動きがとれなくなったといいます。

 (馬場覚さん)「(Qどれくらいの時間はさまれていた?)発災から約6時間やと記憶しています。朝か夜かもわからないし、物音もしないし」

 6時間もの間、圧迫され続けた両脚は、ひざから下の筋肉が壊死してしまいました。

 「クラッシュシンドローム」と診断され、筋肉の切除を余儀なくされた馬場さん。つま先を上に向ける動きができなくなり、今も足首を装具で固定しないとうまく歩くことができません。

 (馬場覚さん)「(Q装具を外すとどうなる?)足がかかとから落ちるのではなく、つま先から落ちてしまう」

「震災障害者の数や程度を把握する必要はない」国の主張

 馬場さんのように震災が原因で後遺症を負ったいわゆる「震災障害者」たち。国はこれまでその人数の把握を積極的には進めてきていません。2019年の国会答弁で政府は…

 (政府の国会答弁 2019年)「原因にかかわらず障害者への支援はすでに行っているため、新たに『震災障害者』を定義して数や程度を把握する必要はない」

 死者数や行方不明者数が公表される一方で、調査すら行われない実態。馬場さんは複雑な思いを抱きながら30年を過ごしてきました。

 (馬場覚さん)「こっちから発信していかないと理解していただけないものだなっていうのがやっぱりあります。(死者数など)目立つ部分に埋もれてしまっていて」

県と神戸市が約300人を震災障害者と認定 しかし「実数はもっといる」

 こうした声を受けて、発災から16年が経った2011年。兵庫県と神戸市が国に先んじるかたちで、阪神・淡路大震災の震災障害者について独自に調査。重傷者1万人以上の中から300人あまりを震災障害者と認定しました。

 しかし、医師の診断書に震災が原因との記載が無かった人や、被災後に県外に引っ越した人は含まれておらず、調査には「漏れ」があると指摘されています。
 
 (馬場覚さん)「(Q自治体調査の結果には該当していない?)それには私自身は入ってないと思います。大阪の病院に転院したこともあって、そういう調査は一切来ていません。実数はもっといらっしゃると思います。(把握する)必要性を感じられていないのかなと」

「災害障害見舞金」を受け取れるのは“ごくわずか”

 被災者支援団体の元代表で震災障害者の声に耳を傾け続けてきた牧秀一さん(74)は。

 (牧秀一さん)「低く見積もっても、(阪神・淡路大震災で)2000人は超えるだろうと推測している。何人いるということがわかれば、市民がほっとかないと思う」

 さらに、牧さんが問題視しているのが震災障害者に支給される「災害障害見舞金」の制度です。災害で後遺症を負った人に最大で250万円が支給される制度ですが、その対象は「両腕を切断した人」や「両脚を切断した人」などかなり重度の障害に限定されています。

 そのため、阪神・淡路大震災で、支給の対象になったのはわずか64人(2019年時点)。今回取材をした馬場さんも、両脚の筋肉の切除を余儀なくされましたが、対象ではありませんでした。

 こうした状況に牧さんは…

 (牧秀一さん)「見舞金は“忘れていませんよ”“一緒に頑張りましょうね”というお金。国が“あなたがたを忘れていません”と意思表示するとどれだけ助かるか」

被災で右脚切断した人の本音「右脚レベルの人はどうでもいいってこと?」

 一方で、震災障害者はその後も増え続けています。2016年4月の熊本地震で大学入学直後に被災した梅崎世成さん(28)は、自宅で倒れた家具の下敷きになりました。

 (梅崎世成さん)「脚が微動だにしない。本当に死を覚悟しました」

 梅崎さんは右脚を切断。今も義足で生活していますが、見舞金の支給対象ではありませんでした。

 (梅崎世成さん)「(支給対象の障害が)重度すぎて、“右脚レベルの人"はどうでもいいってこと?みたいな。そもそも相手にすらされていないの?という気持ちになる」

 支給要件を緩和する余地はないのか。制度を所管する内閣府に聞くと。

 【内閣府の回答より】
 「現時点で支給要件の見直しの予定はございません」

 理由について内閣府は「死亡に匹敵するような厳しい環境に置かれている人を対象としているため」としています。

「『我がこと』として捉えていないのが一番大きい」

 国による調査や支援の拡充が進まないまま、震災障害者たちは長い年月を歩み続けてきました。

 (馬場覚さん)「めっちゃ汚いんですけど、歴代の装具。こんなふうになる。大体5年ぐらいでこうなる。こういうとこが割れてくるんですよね」

 被災当時、劇団に所属する役者だった馬場さん。志半ばで引退せざるを得なくなりました。現在はUSJで裏方としてショーの運営などに携わっています。

 震災で負った「傷」と、かたちを変えた「夢」。30年間、前向きに歩んできました。「震災障害者の存在を知ってほしい」という思いはずっと変わっていません。

 (馬場覚さん)「結局は『我がこと』として捉えていないということが一番大きいのかなと。僕は身に染みていますし、それが必要なこと。既存の制度に合わせることを先にしてしまって、それ以上は考えないっていうのが現状」

 忘れられていた人たちの声が、私たちひとりひとりに問いかけています。

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