【新NISA】積立をとりあえず1万円でしてはいけない理由
MONEYPLUS / 2024年4月16日 7時30分
【新NISA】積立をとりあえず1万円でしてはいけない理由
老後の備えとしてiDeCoやNISAを活用されている方も少なくないと思いますが、「とりあえず1万円」などと安易な金額で積立を始めていませんか? 目標を定めずに積立をしていると充分な金額が準備できないままとなってしまいます。
老後資金の計画の立て方
筆者はファイナンシャルプランナーとして、お客様の老後の資産形成のお手伝いをしておりますが、「なんとなく」NISAやiDeCoを始めましたという方が多いことをとても心配しています。
NISAやiDeCoといった国が推奨する税制優遇の仕組みに関心を持ち、始めることはとても大切なことです。ただ、特に老後のためを目的とするのであれば、もう少し積立計画を練る必要があるのではないかと思っているからです。
例えば、住宅を購入するための頭金や子どもの大学費用などは、お金を使う時期や必要な金額がはっきりしやすいので、具体的な目標額とそれを達成するための毎月の積立額を算出することができます。
仮に10年後に300万円を目標にするのであれば、月に必要な積立額は25,000円ですし、想定利回りを3%とするのであれば、月に必要な積立額は21,000円と計算が可能です。
一方、老後は、いつからを老後とするのか、いつまでその老後は続くのか、病気や介護にかかるお金はいくらを想定したら良いのかなど不確定要素が多く、どうしても目的がぼんやりしがちです。
結果として目標額を決められないまま「とりあえず1万円」などと積立を始め、iDeCo、NISAをしている自分に満足し、「将来は大丈夫」と暗示をかけている方も見受けられます。
また、それを投資によって作りだそうとすると、窓口となる金融機関も「投資は余裕資金で」とか「無理のない金額で」などというものですから、余計に「とりあえず」1万円などと無難な金額を設定してしまいがちです。
無理のない金額で投資をスタートさせることは良いことですが、始めた後、何も学ばない、何も検証しない、何も見直しをしないでいては、いつまでたっても本来の目的であった充分な老後資金は貯められないのです。
前述したように、老後の計画の難しさは不確定要素の多さにあります。いつからを老後と考えたら良いのかは、「仮」で良いので自分で決めます。何歳まで生きるのかもわかるわけがないので、「仮」で決めます。病気や介護にかかる費用も、あまりにもたくさんのケースを想定しても意味がないので、これもまた「仮」決めをして前に進む、これが老後の計画を立てるコツです。
筆者は、「75歳の自分が年金だけで暮らせる状態を作る」ところから仮設定をすることをお勧めしています。仮説から計画をたて、実行し、見直しをしながら継続します。つまりPDCAを回しながら、現実的に実行可能な計画を見つけることが重要なのです。
「75歳の自分」をシミュレーション
例えば40歳の方が、1人で老後を迎えることを想定して「75歳の自分」の状態を考えていくとしましょう。75歳といえば後期高齢者です。もしかしたら1人で暮らすことが難しくなっているかも知れません。
では、認知症が進んでグループホームに入居することを「仮」設定してみましょう。グループホームといっても色々ありますが、ざっくりと介護費と居住費等含め月20万円と見積もります。
また、予備費として月3万円を想定します。つまり月23万円を年金だけでまかなうことができれば、75歳以降の自分はお金のことを心配せずとも安心して暮らせる状態になるというわけです。
月23万円の年金を確保しようとすると年間276万円の年金が必要となります。国民年金は40年加入した人が受け取れる満額が約80万円ですから差額は厚生年金になります。厚生年金で差額の196万円を受け取ろうとすると、23歳から60歳までの会社員期間であれば平均年収は966万円必要です。
仮に平均年収を500万円と想定すると、老齢厚生年金は100万円程度、老齢基礎年金と合わせると180万円が年金額だと分ります。この金額をそのまま65歳から受け取ってしまっては、75歳の安泰は手に入れることができません。
では、繰下げ受給を想定したらどうでしょうか? 5年繰下げると年金額は255万円となり、だいぶ75歳以降必要な年金額に近づいてきました。繰下げは1ヶ月あたり0.7%ずつ増額されますから7年繰下げると目標の276万円の年金額を超えるので、ここでは72歳から年金を受け取ることを「仮」で決めましょう。
これで72歳以降は、月23万円を生活費としても良いですし、グループホームなどの入居費としても利用できます。月23万円の年金で安泰の状態が作れたと仮定しましょう。
では60歳で定年を迎えた後72歳までの生活をどうするかに視点を変えていきましょう。60歳の自分はどのくらい生活費が必要でしょうか? ここでは、72歳以降と変わらず月23万円と一旦「仮ギメ」してみましょう。
月々23万円の生活費は年間276万円です。12年間に必要な費用は3,312万円です。40歳から60歳までの20年間で準備しようとすると月138,000円の積立を実行しなければなりません。3%運用が可能だとしても、月10万円の積立が必要です。
退職金はあるでしょうか? 会社に確認したら1,000万円程度は見込めることが分りました。これも定年まで勤め上げることが条件ですから、途中で転職したらまた計画が変わります。しかし、ここでは「仮」ですから、1,000万円の退職金が見込めるということで話を進めましょう。すると必要は資金は2.312万円となりました。それでも月に必要な積立額は96,000円超とまだまだ現実味がありません。
60歳以降5年間、働いたらどうでしょうか? 生活費をまかなうため年収300万円で働ければその間の生活費を貯めて準備する必要はありません。これで必要な資金は65歳から72歳までの7年間に圧縮されるので、1,932万円となります。
65歳まで年収300万円で働くと、老齢厚生年金を82,000円ほど上乗せさせることができます。これも繰下げられるので、月1万円ほど72歳以降の年金額を増やすことにもつながります。
上記の仮定で毎月に必要な積立額を計算しても月80,500円は必要です。想定利回りを3%にすると月の積立額は58,848円、5%とすると月の積立額は47,003円です。
仮に月5万円の積立を実行すると決めたら、運用方法も想定利回りを達成できるようなポートフォリオを考えなければなりませんし、どうやってその金額を捻出すれば良いのか家計の見直しも必要です。
もし現時点で月5万円の積立が不可能なのであれば、将来的にいついくらに積立額を上げていけば良いのかも考えます。年収を上げて年金額を増やすのか、長く働いて年金額を増やすのか、またそれを実行するためには、勉強するなどしてスキルアップを図ることも考える必要も出てくるでしょう。
シミュレーションが資産形成の成功につながる
さっきから「仮」の話ばかりで、何なんだと思った方もいらっしゃるでしょう。けれど、この条件下であったとしても、月々の積立額を「とりあえず1万円」で続けてはいけないということはお分かりいただけたのではないかと思います。
計画を立てたとしても、計画通りにいかないのが人生です。けれども、様々な状況を想定しながらシミュレーションをすることが、気づきや学びにつながり、ひいては資産形成を成功させることにつながるのです。
例え「仮」の設定であったとして、それなりに知識や情報を扱う技術が必要です。1人で考えるのが難しければ、ぜひファイナンシャルプランナーなどに相談しながら進められることをお勧めします。
とりあえずの積立額を設定するのではなく、人生に意味のある積立額に設定していただく際の参考になりましたら幸いです。
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(山中 伸枝)
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