なぜ現在の宇宙は単純な姿で観測されるのか?、東大などが理由の一端を解明
マイナビニュース / 2024年5月31日 15時52分
東京大学(東大)は5月30日、初期宇宙の急激な空間的加速膨張現象である「インフレーション」の過程で、揺らぎの量子的なふるまいが我々の宇宙を稀な確率で実現した結果、現在のような単純な姿が観測されるに至った一端を解明したと発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科の渡慶次孝気大学院生/日本学術振興会特別研究員(現・東大 宇宙線研究所 特任研究員)、パリ高等師範学校 物理学部門のVincent Vennin主任研究員の国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に6月初旬に掲載される予定だという。
我々の宇宙は、局所的に見ると星・銀河・銀河団といった構造がある一方で、大域的に見ると一様かつ等方であることが知られている。現代宇宙論では、現在の宇宙がこのようになっている理由として、宇宙が誕生直後にインフレーションが起こったためと説明している。一般的に宇宙の始まりは「ビッグバン」といったように理解されている向きが多いが、正確には宇宙が誕生し、1/1034秒後にインフレーションが起き、その結果として宇宙が空間的に数十桁も広がり、その後にビッグバンが起きたと考えられている。
極めて初期の宇宙はとてつもなく高いエネルギーに満ちており、それ故、さまざまな素粒子の「場」が存在し、複雑な様相を呈していたものと想定されているものの、インフレーション中に生成された量子揺らぎについては現在、「宇宙マイクロ波背景放射」を観測することでその痕跡が調べられているが、観測結果は極めて単純な物理モデルで説明されることがわかっている。これは、理論的に期待される宇宙の複雑な姿と、観測による実際の宇宙の単純な姿という不整合が生じていることを意味し、これまで自然な理解を得ることができておらず、現代物理学が抱える原理的な困難の1つとされてきたという。
インフレーションが実現される理論モデルを考える上では、たった1つの「場」によってインフレーションが起こる「単一場」モデルに限らず、より一般に多くの「場」が寄与する「複数場」モデルの可能性もあるとされるが、これまでの観測結果からは、複雑な要素を必要としない「単一場」モデルで説明できてしまうことから、我々の宇宙がどのようにして、このような単純な姿をしているのかはよくわかっていない。とはいえ、インフレーションという現象は、宇宙がまだ小さかった頃の現象のため、重力に加えて量子力学も重要な役割を演じると考えられている。
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