「原始ブラックホール」は生成されない? Kavli IPMUが矛盾点を発見
マイナビニュース / 2024年6月3日 13時3分
東京大学(東大) 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は5月30日、「原始ブラックホール」(PBH)生成に関係した大きな振幅を持った小さなスケールのゆらぎ同士が、量子論的にぶつかり合う効果を場の量子論に基づいて詳細に計算した結果、小スケールに生成した大きなゆらぎが「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)で観測されるような大スケールのゆらぎにも影響を及ぼすことを明らかにしたと発表。
また、太陽の数十倍の質量を持つブラックホールの起源やダークマターの起源を、PBHによって説明できるほど大きなゆらぎを予言するモデルにおいては、CMBの観測結果と矛盾してしまうことから、大きな質量のPBH生成のためにはより複雑なモデルを考えるか、まったく別のメカニズムを考える必要があることが示されたと発表した。
同成果は、Kavli IPMU 機構長兼東大大学院 理学系研究科 附属ビッグバン宇宙国際研究センター長の横山順一教授、東大大学院 理学系研究科のジェイソン・クリスティアーノ大学院生の研究チームによるもの。詳細は2本の論文として、米国物理学会が刊行する2冊の学術誌、機関誌の「Physical Review Letters」と、素粒子物理学や場の理論・重力などを扱う「Physical Review D」に掲載された。
PBHは、恒星級ブラックホールや、銀河中心の超大質量ブラックホールなどとは別物で、その大きさはわずか0.1mm以下、質量も月よりも軽いとされる、現時点では仮想上の存在だ。PBHは、誕生後間もない熱放射時代の宇宙に、エネルギー密度の大きなゆらぎがあると生成されると考えられている。そのゆらぎを作る仕組みとしては、宇宙誕生の直後、ビッグバンになる直前に宇宙が急膨張を起こした「インフレーション期」に生成された「量子ゆらぎ」が最も有力だ。インフレーションが起こるのは宇宙の大きさが水素原子よりもまだずっと小さかったころであり、ミクロな世界を扱う量子論が重要な働きをすることが理由だという。
初期宇宙に実際にどのようなゆらぎができていたのかについては、CMBの観測により理解が進んでいる。長波長ゆらぎは非常に小さく、一様密度からのずれが10万分の1程度にとどまっていることが観測されている。この観測事実は、インフレーションを起こす素粒子の場である「インフラトン」が、ポテンシャルの坂道をゆっくりと転がりながらインフレーションを起こす「スローロールインフレーション」モデルによって説明されている。しかし、通常のスローロールモデルでは、短波長のゆらぎが小さく、PBHになるような大密度領域を作ることはできないことが課題だったという。
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