東大など、高速スピンの集団運動を用いてテラヘルツ光の電流変換に成功
マイナビニュース / 2024年6月10日 19時28分
東京大学(東大)、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)の3者は6月7日、自発的に強磁性や強誘電性などの性質を複数有する物質群である「マルチフェロイクス」の「スピン励起」に注目し、テラヘルツ領域での光(電磁波)による「光起電力効果」の実証を行った結果、今まで実現が難しいと考えられていたテラヘルツ光の光起電力効果が、マルチフェロイクス中の「量子幾何効果」を介して実現可能であることが示されているとわかったと共同で発表した。
また、テラヘルツ帯でのエネルギー変換の効率が、可視や近赤外の光起電力効果に匹敵する大きさを持つことがわかったことも併せて発表された。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の荻野槙子大学院生(研究当時)、同・岡村嘉大助教、同・藤原孝輔大学院生、同・森本高裕准教授、同・高橋陽太郎准教授(理研 創発物性科学研究センター(CEMS) 創発分光学研究ユニット ユニットリーダー兼任)、CEMS 強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクター(東大卓越教授(国際高等研究所東京カレッジ)兼任)、同・永長直人グループディレクター、同・金子良夫 上級技師(研究当時)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
毎秒1兆回の周波数の光は、テラヘルツ光(テラヘルツ波)と呼ばれ、フォトニクス技術のうちで次世代通信帯域として期待されている。ただし、それを実現するには、発生から検出までにおいてまだ多くの技術的課題が残されていることが問題となっている。既存の近赤外や可視光領域で確立されているような高速かつ高効率な光検出へつながる技術の確立が強く望まれており、今回の研究で注目されたテラヘルツ光を電流に変換する技術の実現もその1つ。
一般に可視光領域の光検出では、光を物資に照射した際に、光エネルギーが電気エネルギーに変換され、電流や電圧などの起電力が生じる光起電力効果が広く使われている。しかし、同現象では電子励起を介する必要があるため、可視光の1000分の1程度のエネルギーしか持たないテラヘルツ光に適用することは困難だという。
そうした中で、研究チームの森本准教授と永長グループディレクターが最近になって理論的に予測したのが、強誘電性と磁性が共存するマルチフェロイクスにおいて、スピンが高速に集団運動するスピン励起を利用すれば、電子遷移を介さずとも光起電力効果が発現するというものだ。また、以前より実験的にマルチフェロイクスのスピン励起の特性を研究していたのが、研究チームの高橋准教授と十倉グループディレクターであり、今回の研究では、実験と理論の研究チームが手を取り合うことで、テラヘルツ領域の光起電力効果の実現を実施することにしたという。
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