OIST、脳が酸素不足となった際に記憶障害が生じるメカニズムの一端を解明
マイナビニュース / 2024年6月10日 19時35分
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月7日、記憶や学習に関わる、ニューロン間の結びつきが強くなる(シナプス伝達効率が増強される)プロセスの「長期増強」(LTP)において、脳が一時的に酸素から遮断された時に起こる「無酸素誘発性長期増強」(aLTP)のプロセスを詳細に研究した結果、aLTPの維持には神経伝達物質の一種のアミノ酸「グルタミン酸」が必要であり、同アミノ酸がニューロンと脳血管の両方で一酸化窒素(NO)産生を誘発することを明らかにしたと発表した。
また、aLTPを支える細胞の過程は、LTPの過程と部分的に重複しているため、aLTPが長時間持続するとLTPに必要な分子活動が乗っ取られてしまい、記憶形成が阻害される可能性が示唆されたことも併せて発表された。
同成果は、OIST 細胞分子シナプス機能ユニットのハンイン・ワン博士(研究当時)、同・大学 細胞分子シナプス機能ユニットのパトリック・ストーニー博士(現・同・大学 知覚と行動の神経科学ユニット所属)、同・大学 細胞分子シナプス機能ユニットの高橋智幸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱う学術誌「iScience」に掲載された。
ヒトが何か新しいことを学ぶ時、つながりのあるニューロン同士は互いに電気信号や化学信号を通じてコミュニケーションを行う。同じグループのニューロンが頻繁に連絡を取り合うと、ニューロン間の結びつきが強くなるが、このプロセスは脳が物事を学習し記憶するのに役立つLTPとして知られている。
そしてLTPのもう1つのタイプが、脳が一時的に酸素から遮断された時に起こるaLTP。脳卒中などで見られる記憶障害には、同プロセスが関与している可能性もあるという。また酸素が不足した脳内で、NOがグルタミン酸の放出に関与していることは知られていたが、そのメカニズムは未解明だったとする。そこで研究チームは今回、酸素欠乏が脳にどのような影響を及ぼし、どのようにしてそうした変化が起こるのかを調べるため、同プロセスを詳細に研究することにしたとする。
脳内の酸素が不足すると、神経伝達物質であるグルタミン酸がニューロンから大量に放出され、その結果としてNOが産生される。ニューロンや血管で産生されたNOは、aLTPの間、ニューロンからのグルタミン酸放出を促進する。このグルタミン酸-NO-グルタミン酸のループは、脳が十分な酸素を得た後も続くという。
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