愛媛大、月の海などを構成する玄武岩の形成過程を実験的研究から解明
マイナビニュース / 2024年6月11日 18時44分
愛媛大学は6月10日、月の「玄武岩」の形成過程を調べる化学的指標である「第一遷移元素」(FTREs)と、ガリウムとゲルマニウムの「カンラン石」、玄武岩質マグマ間の分配が、マグマの酸化の度合いを表す「酸素フガシティー」と鉄含有量にどのように影響を受けるか、実験的研究を行った結果、クロムに富むカンラン石を含む月の玄武岩は比較的浅い場所を起源に持つこと、チタンに富むカンラン石を含む月の玄武岩は金属鉄が飽和するほど還元的な環境下で形成されたことがわかったと発表した。
同成果は、愛媛大 先端研究院 地球深部ダイナミクス研究センターのJiejun Jing研究員(日本学術振興会外国人特別研究員)、同・桑原秀治講師らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、地球化学協会および隕石協会が共同で刊行する地球化学や隕石学などを扱う学術誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載された。
月の誕生は、太陽系形成の初期に、原始の地球に火星サイズの原始惑星「テイア」が衝突し、飛び散った地球の破片と、テイアの一部の破片(大部分は地球に取り込まれたと考えられている)からできたとするジャイアント・インパクト説が主に唱えられている。破片が集まってできたばかりのころの月は、全面的かつ深部まで溶解したマグマオーシャンの状態であり、その中でカルシウムやアルミニウムなどの白っぽくて軽い鉱石は結晶化して表面に浮かんでいき、そしてマグマオーシャンが冷えて固まっていった。月の「高地」が白っぽく見えるのは、そうしたカルシウムやアルミニウムなどの軽い鉱石を多く含むためである。
一方、マグマオーシャンの中で、カンラン石(マグマ内で最初に結晶化する鉱物)や輝石などの黒っぽくて重い鉱石は深部に沈み込んでいった。しかし、マグマオーシャンが冷えて表面が固まった後の時代に大型隕石の衝突を受け、玄武岩を含んだマグマが流れ出し、低地を覆ったことから「海」と呼ばれる黒くて平坦な部分が形成されたとされている。
こうした月の玄武岩の形成過程を定量的に理解するためには、FTREs(スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、胴、亜鉛)と、ガリウムとゲルマニウムのカンラン石-マグマ間の分配係数(分配係数は異なる2相間の質量濃度比で表される)に関する正確な知見を得ることが重要だという。
しかし、玄武岩のFTREsをはじめとした微量元素に関する実験的研究に関しては、その大半が地球に関する研究で占められており、月のそうした実験的研究は少ないとする。地球と比較して、月の内部は金属鉄が飽和するほど還元的な環境であることがこれまでの研究から示唆されており、また月の玄武岩は地球の玄武岩に比べて鉄に富んでいることが明らかにされている。そのことから、月の玄武岩の形成環境を理解するためには、玄武岩質マグマの酸化状態や鉄含有量がカンラン石-マグマ間の微量元素の分配に与える影響を調べる必要があったという。そこで研究チームは今回、酸素雰囲気炉を用いて1気圧下での高温実験を行うことにしたとする。
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